2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
25770066
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Tama Art University |
Principal Investigator |
江村 忠彦 多摩美術大学, その他の研究科, 助手 (50648516)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 彫刻 / 乾漆 / 脱活乾漆 / 木心乾漆 / 新海竹蔵 / 山本豊市 |
Research Abstract |
本研究は、工芸技法としてではない、彫刻技法としての乾漆表現について、歴史的にその使用法を検討しながら今日の制作実践に於いて活用することによって、これまでにない新たな技法を生み出すことを目的として行うものである。平成25年度は、特に昭和期の日本に於いて活躍した2名の彫刻家による乾漆作品群を中心にして臨地調査・分析を行い、それと並行して実践研究(創作による研究)を進めた。 臨地調査では、日本近代彫刻史を彩りながらも、未だその乾漆表現に注目した先行研究に乏しい新海竹蔵(1897-1968)、山本豊市(1899-1987)両彫刻家の作品に焦点を当てた。新海作品については山形美術館(8月)と筑波大学(9月)、山本作品については愛知県美術館(9月)に赴いた。実物作品の多角的な実見による本調査から、乾漆を素材とした彫刻表現ならではの造形的特質について経年変化のありようを含めて確認することができたため、一定の知見を得ることができたものと捉えられる。ここでの成果については、平成26年度7月頃刊行予定の『多摩美術研究』の第3号に掲載予定である。 一方、実践研究では、伝統的な乾漆技法である脱活乾漆技法と木心乾漆技法の其々を応用して、素材の特性を活かしながら乾漆ならではの造形を実現する一定の足掛かりを得たため、今後も両技法を主軸としながら継続する。また、構想段階で複数の模型を制作しているが、それらについても乾漆技法を応用してその形状を維持し、各々作品化している。これら構想から完成に至るまでの制作過程については、随時、撮影による記録を行っている。これら記録に基づく分析・検討・考察については、今後、研究期間中に論文をまとめ紀要に投稿する予定としている。また、期間中に制作した(模型を含む)全作品については、最終年度にまとめて展示によって公開予定とする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の研究計画では、平成25 年度は、史的研究に重点を置き、漆芸技法に関する資料収集・調査、日本の乾漆彫刻に関する史的調査・資料収集、伝統的な漆芸技法に関する実見調査、および乾漆技法及び各種漆芸技法の応用による制作実践研究を行うこととしていた。史的研究と実践研究を交えることによって、本研究課題である乾漆によるこれまでにない新たな技法を生み出すことを目標としている。 史的研究では、日本の乾漆彫刻に関する調査・資料収集のうち昭和期に活躍した2名の彫刻家による作品の実見調査について実現することができ、その調査結果についても一論考としてまとめることができた。しかしながら近代以前の乾漆像に関しては、未だ文献調査のみに留まっており、日本の乾漆彫刻に関する資料収集としては十分に網羅できているとはいえない。平成25年度の臨地調査による結果を本研究の主幹とするにしても、未だ比較する資料に乏しい感は否めない。また、X線を用いた修復学的視点から見た乾漆彫刻に関する先行研究などについても未だ触れられていないものが幾つかあるため、これら資料の充実化が今後、本研究の深化に不可欠であるといえるだろう。また、漆芸分野に於ける技法に関する資料収集についても僅かに進めつつあるものの、未だ十分とは言えない現状にある。今後、漆芸制作者による技法の実見や筆者によるそれら試みをも視野に入れて本研究の充実化を図りたい。 一方、制作実践研究については、以上の調査と並行的に概ね順調に進めることができている。ただ、乾漆技法および漆芸技法に関する資料の蓄積とそれらによる知見の集積が図れれば、より奥行きのある制作実践が試みられるものと思われるため、今後はより一層、調査や資料収集と相互に関連付けながら制作実践研究を継続していきたいものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の推進方策としては、既に行ってきた調査結果や制作実践結果等を踏まえながら、わが国の乾漆彫刻に関する史的調査・資料収集について、本研究の目指すところにより一層照準を合わせながら適切に進めることとし、平成25年度に達成することのできなかった部分についても適宜補完するよう留意したい。一方で、現存作家への聞き取り調査や漆掻きの現場への調査など、制作実践研究と密接に関連しうる調査についても実施していきたい。 特に制作実践研究では、伝統的な制作技法に根差しながらも、本研究によって得られる知見を適切に反映させ、理論研究と実践研究を相互に関連付けながら、乾漆ならではの独自の表現の確立を引き続き目指すこととしたい。 即ち、各調査の分析・考察とその結果の明文化、それによって得られる知見を制作実践研究に結び付けながら、より発展性のある乾漆彫刻研究の基盤形成を進めていくものとする。最終年度には、展覧会の開催および調査報告書の作成により、本研究の成果を公開することとしたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額が生じた理由としては、主に次の2点が挙げられる。一つは、当初の計画にて旅費として計上していた調査の一部について、研究遂行の遅延と一部研究計画の微調整によって、実際に赴くことができなかった為、二つ目は、消耗品費の一部についても、研究の部分的な遅延により、文献及び書物品の未購入が発生した為である。これらについては、以上に記した本研究の推進方策に従って、その必要性に応じて適切に使用することとしたい。 本研究の計画によれば、平成26年度は主にわが国の乾漆彫刻に関する史的調査・資料収集を制作実践研究と並行して行うこととしており、とりわけ調査に於いては、前年度に於ける調査を礎として、より焦点化された研究を遂行する予定としている。前年度に達成することのできなかった部分についても適宜補完するよう留意する。制作実践研究に於いては、模型に基づく等身大作品の制作を行う予定としている。 従って、資料収集に係る図書、調査とその編集作業に係るプリンター用インクや諸機器、制作実践研究に用いる各種素材等の購入を消耗品費として計画し、また現存作家等への臨地調査に赴く費用を旅費として、及び文献調査に関わる交通費などをその他費用として、本研究助成金を使用させて頂く予定としている。
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