2014 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
25770066
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Research Institution | Tama Art University |
Principal Investigator |
江村 忠彦 多摩美術大学, 大学院美術研究科, 助手 (50648516)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 彫刻 / 乾漆 / 脱活乾漆 / 木心乾漆 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、工芸技法としてではない、彫刻技法としての乾漆表現について、歴史的にその使用法を検討しながら今日の制作実践に於いて活用することによって、これまでにない新たな技法を生み出すことを目的として行うものである。平成26年度は、前年度に行った2名の彫刻家作品の臨地調査・分析、本年度行った漆林での漆掻きの実習経験、及び各種研究資料による知見に基づき、それらを参照しながらより応用的なかたちで実践研究(創作による研究)を展開した。 実践研究では、伝統的な乾漆技法である脱活乾漆技法と木心乾漆技法の其々を応用して、乾漆ならではの彫刻表現のあり方を探った。これまでに行った臨地調査・分析、及び各種研究資料による知見から(1)漆そのものに形態を与える乾漆技法の特性を活かすことで、単なる“塗り物”に留まらない、より自由度の高い作品制作が可能であること(2)使用方法によっては従来の漆芸作品にあるような艶やかな表情のみならず、よりマットな質感をも実現することができ、これまでの漆芸作品が紡ぎ出してきたイメージを覆す、新たな表現の可能性を示唆できる、という彫刻としての乾漆技法ならではの特質を見出すに至った。更にそれら特質を、漆を扱う経験の中から導き出されるかたちに結び付けることによって、用途に縛られることのない、一表現としての乾漆彫刻の独自性を示唆できる段階に移行しつつある。各作品の構想から完成に至るまでの制作過程については、随時、撮影による記録を行っており、これら現段階での記録に基づく分析・検討・考察については論文をまとめ『多摩美術研究』(第4号)に掲載予定である。また、期間中に制作した(模型を含む)全作品については、最終年度にまとめて展示によって公開予定とする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の研究計画では、平成26 年度は、わが国の乾漆彫刻に関する史的調査・資料収集、現存作家への聞き取り調査を行い、実践研究では、これら調査結果を元に、等身大作品の制作実践(脱活乾漆技法を応用したもの)を行なうこととしている。史的研究と実践研究を交えることによって、本研究課題である乾漆によるこれまでにない新たな技法を生み出すことを目標としている。 史的研究では、前年度の研究成果、更に追加で収集した各種先行研究の調査により、従前の乾漆技法の実態がいかなるものであり、またその後の経年変化が作品自体にどのような影響を与え、表情に変化をもたらすのかを知ることができた。今年度は、前年度より継続的に収集してきた文献等研究資料を精読することはできたものの、臨地調査の機会を捻出できなかったため、現在の制作研究と照合させながら調査対象を絞った上で、次年度に必要最小限の調査を行えるよう準備したい。また、研究計画時にはあった現存作家への聞き取り調査については、現在のところ実践研究と噛み合う調査必要事項が希薄にあるものと思われたため、本年度の実施を行っていない。これについては、今後適宜必要に応じて行いながら本研究の充実化を図りたい。一方で、漆の素材的側面を改めて調査する必要を感じたため、本年度は研究計画にはなかった漆掻き講習への参加と実践を行い、その記録については論文内に収めることができた。 制作実践研究については、以上の調査と並行的に概ね順調に進めることができている。研究計画にあった等身大作品の制作実践は実現されつつあり、現段階までの成果は、論文内にまとめ、2015年7月に刊行される予定である。また、実物作品についても最終年度の成果発表時に展示される予定である。今後はより一層、各種調査や先行研究と相補的に関連付けながら制作実践研究を継続していきたいものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の推進方策としては、既往の調査結果や制作実践結果等を踏まえながら、わが国の乾漆彫刻に関する史的調査・資料収集について、本研究の目指すところに照準を合わせながら適切に進めることとし、一方で、現存作家への聞き取り調査や漆芸制作者による制作方法の調査など、制作実践研究と密接に関連する調査についても前向きに実施していきながら研究をまとめていきたい。また制作実践研究では、伝統的な制作技法に根差しながらも、本研究によって得られる新知見を反映させながら、乾漆ならではの独自の表現のありかを十分に導き出せるよう執り行うこととしたい。 次年度は、展覧会の開催および調査報告書の作成により、本研究の成果を公開する予定であるため、調査事項を焦点化する必要がある。また、制作研究についても、その集大成となるものを実現できるようこれまで行ってきたものを慎重に省察する必要があるものと捉えられる。各調査の分析・考察とその結果の記録化および明文化、それによって得られる知見を制作実践研究に結び付けながら、より発展性のある新たな乾漆による彫刻表現の基盤形成を進めていくものとする。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由としては、主に次の2点が挙げられる。一つは、当初の計画にて旅費として計上していた現存作家への聞き取り調査及び史的調査について、一部研究計画の見直しと調査遂行の遅延によって、実際に赴くことができなかった為、二つ目は、消耗品費の一部についても、昨年度購入分の一部残余により、材料費の未購入が発生した為である。これらについては、以上に記した本研究の推進方策に従って、その必要性に応じて適切に使用することとしたい。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本研究の計画によれば、平成27 年度は実践研究の継続のほか漆芸技法・乾漆技法に関わる資料の収集・調査に係る補完、平成25・26 年度に於ける研究の補完及び総括、及び、展覧会の開催と調査報告書の作成による研究成果の公開を企図している。研究の総括に向けて、調査と実践内容をまとめる必要性があることから、その中で必要とされる補完すべき未調査内容を明確化し、次年度に於いて適宜焦点を絞った上で執り行うよう留意したい。従って、制作実践研究、およびその成果発表を行うために必要な諸物品、補完すべき史的調査・資料収集に基づく図書等消耗品費、及び史的調査や現存作家等への臨地調査に関わる旅費、成果発表に係る会場借用費、印刷製本費、搬入出費、郵送費等をその内訳として本研究助成金を使用する予定である。
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