2015 Fiscal Year Annual Research Report
『長珊聞書』から見る三条西公条を中心とした源氏学の実証的研究
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25770079
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
本廣 陽子 上智大学, 文学部, 准教授 (40608931)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 長珊聞書 / 源氏物語 / 古注釈 / 三条西公条 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度まで『長珊聞書』に見られる三条西公条の源氏解釈の実態を明らかにしてきた。本年度はそれを踏まえた上で、『岷江入楚』内に『長珊聞書』から引用されている公条説を調査し、『岷江入楚』における『長珊聞書』の位置づけを考察して論文にまとめた。以下、その概要を示す。 『岷江入楚』の料簡に見られる「此抄ニ引ク処ノ肩付」には、「或抄」として『長珊聞書』が示されている。正統な三条西家の注釈書と並んで、一介の連歌師の注釈書である『長珊聞書』が示されていることの意味を、注内部から捉え直すとともに、中院通勝が『長珊聞書』をどのように捉えていたかを考察した。 『岷江入楚』内の注記を見ていくと、そこに引用されている「御説」(『長珊聞書』内の公条説)の中には、他の三条西家の注釈書には見られない注記がある。通勝がこれらを『岷江入楚』に取り入れたということは、通勝は、手持ちの三条西家の注釈書にはない内容で、なおかつ、注を必要とした箇所に合致した場合、連歌師相手に語られた公条の源氏解釈も採用したということになる。 この「御説」だが、『岷江入楚』に引用された「御説」の中には、「秘」として引かれた公条説とは異なる解釈でありながら、しかし、それが公条の息子である三条西実枝の説と共通するものがいくつも存在する。つまり、公条が連歌師長珊相手に行った、これまでとは違う新しい源氏解釈の中には、息子実枝に対しても行われ、継承されたものがあるのである。このような注が存在するからこそ、通勝にとって、『長珊聞書』は正しく公条の説を伝えるものとして把握され、連歌師の注釈書であるにも関わらず、『岷江入楚』の資料として採用されたと考えられる。「御説」の正統性は、注内部からも確かめられるものであったのである。
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Research Products
(1 results)