2015 Fiscal Year Research-status Report
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25770080
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Research Institution | Kyoto Koka Women's University |
Principal Investigator |
望月 和歌子 (宮本和歌子) 京都光華女子大学, キャリア形成学部, 講師 (60638196)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 日本近代文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
江戸川乱歩が大量に所蔵していた書籍に関して、それらがどの程度創作活動に反映されていたか、考証を行った。人間の心理について関心を持ち、強固な先入観が正しい認識の妨げになり、事実がねじ曲がって知覚されるということを幅広いジャンルの書籍から得た知識によって実感し、心理的トリックとして作品に描いていたと考えられる。 錯誤や思い込みの作用を利用した犯罪隠匿法は乱歩が頻繁に用いていたが、それは作者にとって都合の良い物語展開だからではなく、一生を通じた関心の対象であったことを示している。一般的に彼の作品の特徴として連想されることの多い変態性欲的描写も、外界の認識や受容の多様性を描いているものであることを、いくつかの作品解釈を通じて示した。 乱歩が好んで読んでいた作家の一人であるH.G.ウェルズはSF作家の祖として知られているが、現時点での人類について多角的に検討し常識とされている知識から脱却した結果、先進的科学技術と受け止められる内容の作品が完成したと考えられる。乱歩がウェルズの作品を下敷きにした例が見られるのは、常識や先入観からの脱却が新境地をもたらすという見解に一致した考えを持っていたからであろう。乱歩の作品に登場する異端的嗜好の持ち主の人々とは、先入観や固定観念を打破してあらゆるものを受容、認識しようと試みている人々であり、奇を衒った変態的、異端的描写のみを目的としていたわけではない。彼の作品に登場する変わった嗜好の人々を変態的と評することは、読み手側がいまだ固定観念から脱却しえていないことを示していることを論証した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
調査過程において予想外の知見が得られ、そちらの調査も行ったために当初の計画はあまり進められなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
東京で探偵作家として活動を開始する前の足跡について、ほとんど知られていない事実が判明したため、当面そちらを重点的に調査、研究を行う予定である。
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Causes of Carryover |
計画時には予測していなかった発見があり、そちらの調査を行っていた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
現地調査を行う費用とするほか、関連資料の収集を行う。
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