2014 Fiscal Year Research-status Report
1960年代のテレビ文化黎明期におけるテレビドラマ制作と〈文学〉
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25770084
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
瀬崎 圭二 広島大学, 文学研究科, 准教授 (70413284)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | テレビ / テレビドラマ / 安部公房 / 「日本の日蝕」 / 「虫は死ね」 / 和田勉 / 小南武朗 / 芸術祭 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度の研究成果は、拙論「安部公房作「日本の日蝕」を読む/視る」(『同志社国文学』81 2014年11月)、及び「安部公房作「虫は死ね」を読む/視る」(『近代文学試論』52 2014年12月)にまとめた。 前者では、昭和34年度芸術祭奨励賞を受賞したテレビドラマ「日本の日蝕」(1959年10月9日放送 NHK)を取り上げ、その映像作品を実際に視聴した上でドラマの分析を行った。脚本から垣間見える安部公房の問題意識や、NHK放送博物館に保存されていた番組制作時の台本から判明した事実、演出を担当した和田勉の実験的試み、放送後の評価などを論点に取り上げ、考察した。その結果、戦後の日本のあり様を問いかけるドラマの主題や、それを表現する映像手法の点において、極めて意義深いテレビドラマであることが明らかになった。 後者では、同じく昭和38年度芸術祭奨励賞を受賞したテレビドラマ「虫は死ね」(1963年11月10日放送 HBC)を取り上げ、同様に映像作品を視聴した上でその分析を行った。このドラマは北海道の農村が抱える問題を背景に制作されているため、当時の北海道の農業の状況に目を配りつつ、ドラマの表現やドラマ放送後の評価を考察した。その結果、ドラマの末尾において、安部が用意した脚本と実際の映像作品との間にある微妙な差異が、このドラマの解釈に影響を及ぼしていることが明らかになった。 今年度、論文を執筆したこの二作から、安部公房やドラマの演出家たちが、テレビという新しいメディアで試みようとしたことの可能性と限界が浮き彫りになったと言えよう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画では、文学作品のテレビドラマ化の事例を取り上げ、文学作品が聖典化されていく力学を浮かび上がらせることを企図していたが、予想通り、当時のテレビドラマの多くは保存されていなかったため、映像が現存しているテレビドラマを研究対象の中心に据える方向に転じた。この方向転換は、交付申請書に記載した研究実施計画通りのものである。 また、当初は原作、脚本、映像を比較した上で、原作の改変、修正、省略、増補の様相を分析することを考えていたが、この点についても、映像が現存している作品を中心に据えることになったために見直さざるを得なくなった。前述したように、脚本も映像も現存している「日本の日蝕」「虫は死ね」といったテレビドラマを研究対象に据え、脚本と実際の映像作品を比較し、その差異について分析を施す方向に転じた。 著名な文学作品のテレビドラマ化という事例ではなく、テレビドラマという表現の可能性を追究するこれらの芸術祭参加作品を扱うことになったことは、本研究の今後の展開を切り開く結果をもたらした。
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Strategy for Future Research Activity |
安部公房が脚本を担当した「日本の日蝕」「虫は死ね」という二つの芸術祭奨励賞受賞作品を分析対象とし、論考を執筆した結果、研究がかなり具体化されることになった。その後は、テレビドラマの分析を他の安部公房の芸術祭参加作品に広げており、昭和39年度芸術祭奨励賞を受賞した「目撃者」(1964年11月27日 RKB)の分析を進めている。「目撃者」については、RKBの協力を得て、当時の番組制作関係者の証言を得ることもできたので、今後公表される研究成果の中でそれらを披露する予定である。 これまでに取り上げてきた「日本の日蝕」「虫は死ね」「目撃者」は、いずれも横浜市の放送ライブラリーで一般公開されているテレビドラマであるため、その映像にアプローチしやすかったが、やはり安部公房が脚本を担当し、昭和35年度芸術祭奨励賞を受賞した「煉獄」(1960年10月20日放送 KBC)は、放送ライブラリーには保存されていない。今回、KBCの協力で、局に保存されている映像を視聴することが可能となったので、「煉獄」についての考察も進めていく予定である。 また、安部の作品だけでなく、現存している当時の芸術祭受賞作品の視聴と考察を進めることも、今後の研究の視野に入っている。そのために必要なテレビ、及びテレビドラマ分析の理論を把握する予定でもある。
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