2015 Fiscal Year Research-status Report
1960年代のテレビ文化黎明期におけるテレビドラマ制作と〈文学〉
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25770084
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
瀬崎 圭二 広島大学, 文学研究科, 准教授 (70413284)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | テレビ / テレビドラマ / 安部公房 / 久野浩平 / 梅津昭夫 / 「目撃者」 / 「煉獄」 / 芸術祭 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度の研究実績は、拙論「記憶の映像化 安部公房作「目撃者」を読む/視る」(『日本近代文学』93 2015年11月)、及び「安部公房作「煉獄」を読む/視る」(『国文学攷』228・229合併号 2016年3月)にまとめた。 前者では、昭和39年度芸術祭奨励賞を受賞したテレビドラマ「目撃者」(1964年11月27日放送 RKB)を取り上げ、現存する映像作品を視聴した上でドラマの分析を行った。このドラマは、ある島で起こった殺人事件を再現表象するドキュメンタリー・ドラマの制作そのものを描いているが、このような方法を採ることによって、関係者による事件の隠蔽を批評する立場に立つと共に、事件の再現表象の困難を伝え、さらには映像による再現表象そのものを問いかけようとしていることが明らかになった。また、この方法は、ドキュメンタリー番組が定着していった当時のテレビの状況を相対化するものであることも明らかになった。 後者では、昭和35年度芸術祭奨励賞を受賞したテレビドラマ「煉獄」(1960年10月20日放送 KBC)を取り上げ、九州朝日放送に保存されていた映像作品を視聴した上でドラマの分析を行った。従来、「煉獄」は、勅使河原宏監督の映画「おとし穴」の原型としてしか位置づけられていなかったが、実際に映像を確認することで、このドラマが持つ独自の表現性が明らかになった。このドラマは、テレビというメディアを通じて一般視聴者に伝えられるには多くの歪さを抱えているが、その歪さにこそ、九州の一地方局の問題意識が潜んでいることも明らかになった。 研究論文として発表したこの2作品に加え、横浜市の放送ライブラリーやNHKの番組公開ライブラリーを活用し、現存している当時の芸術祭参加テレビドラマや、問題意識の高いテレビドラマを視聴し、その傾向についても整理した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度の研究の方向性を維持し、テレビドラマという表現の可能性を追求した芸術祭参加作品と、文学者との接点について考察することになった。特に、芸術祭に深く関与した安部公房作のテレビドラマについてはほぼ調査を終え、一定の研究成果を得ることができた。中でも、現在視聴することが困難な「煉獄」を、九州朝日放送の協力により、視聴、分析できたことは研究の大きな進展をもたらした。 そのような経緯から、安部公房が関与したテレビドラマの受容の側面を、当時の新聞や雑誌を対象に行うことになったが、結果的にそのことが当時のテレビ番組の状況や受容のあり様を知ることにもつながった。芸術祭のあり方をめぐる、当時の様々な議論も視野に入れることができた上に、当時の芸術祭参加テレビドラマについても、現存するものはほぼ視聴し、その表現を整理することができた。 これらの作業により、今年度は、芸術祭参加作品を中心に研究を進めていく方針がさらに強固なものとなり、研究の方向性がより具体化されることとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
安部公房が関与したテレビドラマについてはほぼ調査を終えたので、今後は、テレビドラマ制作にかかわった他の作家へと調査を広げる予定である。現在関心を持っているのは、やはり芸術祭奨励賞を受賞した椎名麟三作「約束」(1964年11月20日放送 NHK)と、秋元松代脚本の芸術祭賞受賞作「海より深き かさぶた式部考」(1965年11月21日放送 RKB)である。前者はNHKの番組公開ライブラリーで、後者は放送ライブラリーで視聴可能であることが確認できている。前者は和田勉、後者は久野浩平が演出を担当しており、脚本と演出との関係を考慮しながらドラマを分析し、当時の新聞や雑誌の調査を通じて、放送時の識者や一般視聴者の反応も確認しておく必要があろう。 また、NHK番組アーカイブスの学術利用トライアルにも採用されたため、一般には公開されていない、谷川俊太郎作「あなたは誰でしょう」(1961年4月29日)小田実作「しょうちゅうとゴム」(1962年3月10日放送)寺山修司作「一匹」(1963年1月16日放送)を視聴し、調査、分析が行えることになった。これらは芸術祭参加作品ではないが、当時の芸術性を意識したテレビドラマとして位置づけることができる。 以上のような作業から、文学者とテレビドラマとの関係がさらに明らかになるものと思われる。
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