2013 Fiscal Year Research-status Report
1930~40年代の朝鮮、台湾、満洲における日本語文学と〝言説の磁場〟の検討
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25770090
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Hokusei Gakuen University |
Principal Investigator |
宮崎 靖士 北星学園大学, 社会福祉学部, 教授 (10438351)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 日本文学 / 近代文学 / 朝鮮文学 / 日本語政策 / 言説 / 崔載瑞 |
Research Abstract |
本年度は、1940年前後の朝鮮文壇における、特に日本語使用をめぐる言説傾向を明らかにすべく、主に次の2点からの検討を行った。第1には、この時期における日本語政策の特質を検討した。その結果、文化面、その中でも特に文学における日本語使用については、学校教育や職場、家庭における日本語使用と比較して、総督府や総力連盟からの介入・指導の度合が低く、日本語使用の如何について文学者個々人の裁量に委ねられる部分が大きいことが確認できた。そしてそれ故に、朝鮮文壇における日本語使用については、文学者個々におけるそれへの主体的な関与や意味付けが多様になされていたという観点を得られた。 続けてこの時期における朝鮮文壇の主導的な批評家であった崔載瑞の言説を検討した。これに関しては、三原芳秋氏の指摘をふまえ、異質なもの同士の交渉を双方に変容をもたらす機会として把握する観点を重視した分析を行った。そこで本研究が新たに注目したのは、崔載瑞における日本語認識の展開である。その特徴は、日本語をあくまで何かの目的にむけた手段とする点に求められ、それは編集主幹の立場から雑誌『国民文学』を国語雑誌へと改変した際の言動からも明確に認められるものであった。そのような検討から、崔載瑞における日本語使用へのスタンスは、それによって「内地人」にむけた語りかけを行い、朝鮮文壇の現状に関する解説者的役割を担いながら、そのことを通じて「内地」と「朝鮮」の関係性を「朝鮮」の側の利益を保持する形で組み替えつつ維持しようとする試みの連続として理解できた。 以上の検討成果を、既に公表している金鍾漢、牧洋、時枝誠記の言説傾向に関する理解と総合すると、日本語表現の話し手と聞き手、更にその双方における対象の理解に関する同一性をめぐる多様な試みの存在が明らかとなり、朝鮮における〝言説の磁場〟を、そのような営みの集積として見出すことが可能となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
今年度の研究に関する達成度は、最高の(1)とした。その理由は、第1に、当初の計画にあげた検討項目としての、1940年前後の日本語政策の特質と崔載瑞の日本語テキストにおける言説傾向を包括的に分析することができ、その上で、朝鮮における〝言説の磁場〟の内実を具体的に抽出することができたからである。 と同時に、第2には、当初の計画には明記していなかった対象をも検討し、その成果を加味することで、〝言説の磁場〟のありように関して、予定外の要素を取り込みつつ、より立体的に把握することが可能になったからである。その検討対象とは、a李光洙、b金龍濟、c兪鎮午という3人の朝鮮人文学者が、1940年前後に発表した日本語テキスト群である。aに関しては、1939年後半から40年前半にかけての時期に日本語使用を「日本人」になるための必須の手段として強調するように転じる次第を、時代状況との関わりから分析した。またbについては、39年前半期から、新時代における朝鮮文学の旗手としての自覚のもとで日本語使用に積極的に関与するというスタンスを浮き彫りにし、cにおいては、朝鮮文学を「内地文壇」と共通の基準で価値評価されるべきものとし、それにむけた日本語創作をめぐる模索と提言がなされる様相を検証した。 それらの検討成果は、全て異なる動機に基づく日本語使用でありつつも、しかし日本語使用を通じて「内地人」を中心とする日本語理解者にむけた文学的な実践を試みている点で共通する。これらを「研究実績の概要」に記した検討成果と総合することで、朝鮮における〝言説の磁場〟を個々の文学者における、日本語の読者へむけた意識的な実践の集合として把握し、かつそれらの間に認められる共通項をより高い精度で抽出することが可能となった。
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Strategy for Future Research Activity |
提出済みの「研究計画・方法」に従い、平成26年度は台湾、27年度は満洲における事例を検討していく。なお、検討の手順及び方法的な側面に関しては、当初の予定に加えて、上に記した平成25年度における検討成果を加味した作業を展開していく。 その中で特に留意する点は、以下の2点である。まず第1には、各地の〝言説の磁場〟を抽出する際に、多くの作家や詩人、評論家のテキストを個別に検討し、各自における事情や動機に基づく日本語認識を精査することから、それぞれの個別性を保持しつつ、それらの集積として事態を把握することである。そして第2には、朝鮮、台湾、満洲の事例に関して、各々の特殊性、及び固有性に配慮し、それらを矮小化せずに把握し、その上でそれらの間における共通性を抽出することである。 これらの問題については、特に平成26年度の検討で台湾の事例を明らかにし、朝鮮における事例との対比が可能となる時点で直面する問題だと思われる。そこで生じる諸問題をクリアしつつ、27年度における満洲の事例の検討、及びそこでの成果を含めた本研究のまとめを目指していきたい。
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