2015 Fiscal Year Annual Research Report
1930~40年代の朝鮮、台湾、満洲における日本語文学と〝言説の磁場〟の検討
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25770090
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Research Institution | Hokusei Gakuen University |
Principal Investigator |
宮崎 靖士 北星学園大学, 社会福祉学部, 教授 (10438351)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 満洲 / 日本語文学 / 翻訳 / 『原野』 / 『蒲公英』 / 芸文指導要綱 / 満系 / 大内隆雄 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、創作集『原野』(1939年9月)以降に発表された、大内隆雄等の訳者による満系作家の日本語訳テキストとそれをめぐる動向を、単行本、新聞、雑誌掲載のものにわたり包括的に検討し、主に以下の4点を明らかにした。 ①創作集『原野』に、この書物に対する典型的な評価である「暗さ」という傾向と合致しないテキストや、合致しない側面をも多分にもつテキストが多く含まれること。②『原野』の翌年に刊行された創作集『蒲公英』(40年7月)では、『原野』に対してなされた「暗さ」という評価と合致するテキストが多く収録されていること。③件の「暗さ」は、「芸文指導要綱」(41年3月)に示されるような、満洲において推奨される文芸の性格とは必ずしも合致しないものであること。ただし、満系を含む諸民族の文学作品の日本語訳は、満洲政府から推奨される行為であり、件の「暗さ」は(それのみでは)弾圧の対象とはならなかったと判断できること。④『蒲公英』以降の日本語訳テキストでは、件の「暗さ」に収束しない、多様な作品傾向が明確に前景化すること。そしてそれは、文芸の多様性を指向する「芸文指導要綱」とも合致していること。 以上を総合すると、件の「暗さ」という評価が、文芸創作に関する国家管理体制が進展する中で、その潮流と同調しそれを加速させるものではなく、ただしその存在を尊重されるという独自の立ち位置を日本語訳テキストに提供したことが浮き彫りとなる。更に『蒲公英』以降は、「暗さ」以外の側面が、満系作家の日本語訳テキストに対する評価のバリエーションとして付加され、件の立ち位置がより確固なものとなっていった次第が推測される。そのような事態を創り出したものとして、満洲における〝言説の磁場〟を見出すことができた。
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