2014 Fiscal Year Research-status Report
ラテン語宗教テクスト Stimulus Amoris (c. 1300) の校訂
Project/Area Number |
25770114
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Research Institution | The Open University of Japan |
Principal Investigator |
井口 篤 放送大学, 教養学部, 准教授 (80647983)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 中世ラテン語宗教文学 / 中世イングランド宗教文学 / 翻訳研究 / 比較文学 / 文献学 / ラテン語の宗教的議論の母語での展開 |
Outline of Annual Research Achievements |
2014年度は、“Stimulus Amoris” (以下 “Stimulus”) のラテン語写本のうち、大英図書館に所蔵されている写本、特に Additional 20029, Cotton Vespasian e.1, Royal 7. A. i, Royal 8. B. x を中心に調査した。これらの写本およびすでにオンライン上で参照している Corpus Christi College, Cambridge, MS 252 (以下 CCCC 252)、Corpus Christi College, Cambridge, MS 137 を "Stimulus" の中英語翻訳 “The Prickynge of Love” (以下 “Prickynge) と綿密に比較する作業を続けた。その結果、本研究の当初暫定的な底本として据えた CCCC 252 写本は、中英語翻訳 “Prycknge” の原典ではない可能性が浮上した。 また、さらに重要なことに、調査を進める中で、これまでに参照したラテン語写本の中には、“Prickynge” の直接の原典となった単一のラテン語写本はおそらく存在しないであろうことが明らかになった。参照した写本のうち、中英語翻訳ともっとも近似性の高いものは、大英図書館所蔵の Royal 7. A. i であった。しかし Royal 7. A. i さえも、中英語翻訳とは決定的に異なる読みをもっている箇所がある。このため、Royal 7. A. i を "Prickynge" の底本であると最終的に結論づけることはできない。 以上、肯定的な調査結果とは言えないが、大英図書館での写本調査で明らかになったことを、2014年12月に同志社大学で開催された日本中世英語英文学会にて報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2014年9月に本科研費で行ったイギリスでの調査旅行においては、予定していたよりも一つ一つの写本を精査するのに時間がかかったためである。科研費の範囲内では1週間の滞英が限度であり、この限られた時間では、"Stimulus" のラテン語写本が存在する大英図書館、オックスフォード大学各図書館、ケンブリッジ大学各図書館のうち、大英図書館でしか調査を行うことができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
上述の通り、2015年度はオックスフォード大学 (ボドリーアン図書館およびコーパス・クリスティ・コレッジ図書館)、そしてケンブリッジ大学 (トリニティ・コレッジ図書館) 所蔵の "Stimulus" 写本を調査し、これまでの結果と照合する必要がある。より具体的には、本年度イギリス調査旅行で参照するのは、Cambridge, Trinity College, MS B. 14. 7; Oxford, Bodleian Library, MS Digby 58; Oxford, Corpus Christi College, Cod. 240 の3写本である。 「研究実績の概要」で述べた通り、現在のところ中英語の "Prickynge" にもっとも近いラテン語写本は Royal 7. A. i である。本年度の滞英調査においては、オックスフォード大学およびケンブリッジ大学に所蔵されている、まだこれまでに参照していない写本 (上段落の通り) の調査を進めることになるが、そのことによって、Royal 7. A. i よりも "Prickynge" に近いラテン語写本があるかどうかを探っていくことになる。おそらくは、中英語翻訳者が単一の原典から翻訳した、という仮説にも見切りをつけ、二つ以上の写本から翻訳した可能性も視野に入れながら調査を続ける必要があるであろう。そして、これら残りの3写本を調査し終わった段階で、結果をまとめ、学術雑誌に発表することを目標としている。
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Research Products
(1 results)