2013 Fiscal Year Research-status Report
現代イギリス文学・文化における老いの意味と経験、主体性の研究
Project/Area Number |
25770115
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
|
Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
迫 桂 慶應義塾大学, 経済学部, 准教授 (60548262)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 老い / 認知症 / ジェロントロジー / 戦後・現代イギリス文学 / 現代イギリス文化 / 英米文化 |
Research Abstract |
本研究の目的は、戦後・現代イギリス文学・文化における老いの意味と経験、主体性、また、それらが構築・表現される過程を明らかにすることである。具体的には4つの研究(1.女性作家の老いと物語研究、2.認知症の文学・文化表象研究、3.老いと身体の文化研究、4.映画にみる老いと身体の表象研究)を行う。本年度は、各研究に有用な文献調査を行い、関連研究の内容及び方法・理論に対する理解を深めた。同時に、以下の研究成果発表に取り組んだ。 1、研究4の成果をDr Sarah Falcus (英国Huddersfield大学)との共著論文‘Ageing, Women, Travelling’にまとめた。5つの映画作品分析を通し、現代文化における老いのアイデンティティーが、ポストフェミニズム文化の場合と同様に、消費と若い身体維持を中心に構築される傾向が明らかになった。図書(論文集)の収録論文選考に提出した。 2、前科研費補助研究課題の成果(上記3と4に関連する内容のもの)を出版する取り組みを継続した。 (1)Dr Ursula Canton (英国Glasgow Caledonian大学)との共著論文‘Old Age, Dementia and the Iron Lady’を国際学術雑誌に投稿。認知症者の主体性がいかに表現され、受容されるかを、身体及び文化的コンテクストに注目して考察した。 (2)Dr Falcusとの共著論文‘“I Must Learn to Grow Old Before I Die”’: Women, Ageing and Travels to Italy’を 国際学術雑誌に投稿。3つの小説を対象に、イタリアという土地のもつ歴史的・文化的意味が中年以降の女性のアイデンティティー構築とどう作用するかを分析し、老いの経験、身体、アイデンティティーとジェンダーの関連を示した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「研究実績の概要」欄で説明したように、これまでの研究成果を出版する試みに伴い、投稿した3本すべての論文について、加筆修正の依頼を受け、それに応じたため、その作業に多くの時間を費やした。これにより、予定していた研究(上記同欄に挙げた1-3)に遅れが生じた。また、欧米圏で文化ジェロントロジー研究が急速に拡大発展している背景から、研究を進める過程で、内容や方向性を再検討する必要性が明らかになったものがあった(詳細は「今後の研究の推進方策」欄参照)。
|
Strategy for Future Research Activity |
1.上記研究2を成す、Dr Falcusとの共著書の企画書は2014年内の提出を目指している。認知症の文化・文学表象をテーマとし、映像・メディア作品も対象に含める予定であったが、過去1,2年に、映画テキストを分析対象とする研究が複数発表された。そこで、本共同研究に独自性と意義をもたせるため、比較文化の視点を取り入れることと、文学テキストに対象を絞ることを検討している。この検討過程で、日本における認知症の文学・文化テキスト研究を共同で行っている(一部成果を2014年4月10日国際学会で共同発表)。本研究代表者が英国滞在中である利点を生かし、2014年度はこの共著書の関連研究を優先的に進める予定である。これにより、その他の研究に遅れが生じる可能性がある。 2.上記研究1では、自伝的要素、歴史文化的コンテクスト、テキスト読解をいかに有効に融合させるかの理論的・方法論的困難を認識している。文献・先行研究の研究を継続し、対応策を見いだしたい。成果の一部を、7月開催の国際学会で発表予定である。 3.上記研究3はSaga Magazineを通した老いと身体の関連の考察であった。しかし、同雑誌を分析対象とし、着眼点が近似した研究が発表されたため、新しいテーマ、異なる年代や記事の設定を見出す必要が生じた。文化的ジェロントロジー研究の現況に照らし、意義のある研究が可能かどうか、有効な方法論が見つけられるか再検討を行う。 4.上記投稿論文のうち不採用が確定した一本(Old Age, Dementia and the Iron Lady)について、加筆修正を行い、異なる学術雑誌での出版可能性を探る。本論文を投稿直前に、分析対象作品が重複し、論旨も近似した論文が発表された。今回は、それと差異化する形で独自性を打ち出し、それに適当な学術雑誌に投稿したいと考えている。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
2014年3月31日より、所属大学から1年間の在外研究の機会を与えられたため、春休み中に予定していた研究打ち合わせを目的とする渡英を、在外研究開始後に延期した。これにより、旅費が減額された。また、研究に必要な図書の多くが所属大学図書館に所蔵されていたため、書籍代が減額となった。 7月にオーストラリアで開催される国際学会に出席するが、それにかかる旅費が日本から出発するよりも増える予定である。さらに、在外研究期間の滞在先では、図書費・文献複写費が増額することが予想される。
|