2014 Fiscal Year Research-status Report
18世紀フランス思想における科学と文学:ディドロの言説戦略の分析を起点として
Project/Area Number |
25770122
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Research Institution | Utsunomiya University |
Principal Investigator |
田口 卓臣 宇都宮大学, 国際学部, 准教授 (60515881)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | フランス文学 / 18世紀 / 思想と文学 / フィクション / ディドロ / モンテスキュー / 自然 / 専制批判 |
Outline of Annual Research Achievements |
ディドロの言説戦略の分析を起点として、18世紀フランス思想における科学と文学の交錯の諸相を検討するという研究目標に向け、着実に前進できた。 研究内容の面では、(1)ディドロの『自然の解明に関する断想』(1753年)における科学思想(生物学、電磁気学、地学等)と文学表現(反実仮想、比喩、語りの形式等)の相互作用を明らかにする世界初の試み、(2)18世紀フランスの思想家たち(ビュフォン、ルソー、モンテスキュー)における科学的知見と、彼らが実践する文学的方法の関係に関する検証、という2点について、前進ないし展開があった。 具体的な成果としては、(1)に関して、『思想』誌上で「ディドロ『自然の解明に関する断想』精読」と題する全5回の連載論文を完了できた。この連載論文を元に、単行本の刊行に向けていくつかの章を書下ろし中である。この単行本は2015年度内に、確実に出版できる。(2)に関しては、日本フランス語フランス文学会2014年秋季大会において、「301年目のディドロ――現実とフィクションを疾走するエクリチュール」と題する講演を行ない、その場での意見交換により多くの示唆を得たこと、また、2014年12月の富山大学において、18世紀思想を俯瞰した「Lettresの精神――思考の鋳型から離脱するまてに」と題する講演を行ない、一定の研究成果を上げたこと、を挙げられる。 今年度はさらに、17~18世紀の思想における「主権と統治」の関係に関して、考察を深めることができた。具体的には、ルソーの政治哲学に関する研究書のリビューを執筆したこと、また、17世紀以降の政治思想史に関する対談本のリビューを執筆したことにより、ルソー、ディドロ、モンテスキュー、ジャコバニズムなどの政治思想(特に「専制despotisme」をめぐる様々な議論)について、いくつかの知見を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、ヴォルテールの『哲学書簡』、ルソーの『エミール』、ビュフォンの『博物誌』に関する研究を深める予定であった。その作業に関する業績そのものはまだ提示できていないが、一定の知見を得ることはできている。 また、この点に関する業績の欠如を補って余りあるほどの業績と知見を、ルソー、ディドロ、モンテスキューなどの思想について提示することができた。何より、「研究実績の概要」で述べたように、ディドロ前期の代表作『自然の解明に関する断想』(1753年)に関する連載論文を、『思想』誌上で、最後まで完了することができた。この連載論文を元に、今年度中に単行本を出版する予定である。 この意味で、研究は「おおむね順調に進展している」と言える。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでと同様に、今後もひきつづきディドロの思想における「科学と文学」の問題を中心に研究を着実に進めていく。その具体的な成果は、2~3章分の論文原稿を書き加えることで、単行本の出版という形で世に問うつもりである。この書物が刊行されれば、研究計画書でも示唆した通り、思想史や文学史の数ページに、一定の書き換えをもたらすことができると思われる。 一方、前年度に引き続き、ヴォルテールの『哲学書簡』、ルソーの『エミール』、ビュフォンの『博物誌』に関しても、「科学と文学」という視座からの検証を続行する予定である。できれば、ディドロとの関係性も踏まえながら、一定の成果を示せればと考えている。目下、この研究の方向性の一環として、2015年11月、フランスのオルレアン大学において、研究発表を行なう予定である。 また、昨年度の「今後の研究の推進方策」にも書いたことだが、モンテスキューにおける「科学と文学」の問題に関して、一定の研究を進展させたい。その具体的な成果としては、彼の書簡小説の傑作である『ペルシア人の手紙』(1721年)の「翻訳と解題」を提示することができれば、と考えている。さすがに、その成果を今年度中に世に問うことは難しいかもしれないが、すでに単行本としての刊行企画が進行中である。
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