2014 Fiscal Year Research-status Report
フランス古典主義演劇の成立期におけるキリスト教悲劇
Project/Area Number |
25770125
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
千川 哲生 立命館大学, 文学部, 准教授 (50587251)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | イエズス会 / 悲劇 / 学校教育 / フランス演劇 / キリスト教 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度に引き続いて、フランス17世紀のイエズス会演劇の研究を行った。具体的には、ニコラ・コーサン神父のラテン語悲劇をコーパスとして、演劇的な世界観がどのように劇構成と関係しているか、また、この世界観の表現技法としてどのようなレトリックが用いられているかを分析した。ただし、コーサンの悲劇作品を分析するだけでは、その世界観および表現方法の独自性を明らかにすることは不十分なため、比較する対象を取り上げた。まず、16世紀ポルトガルのルイス・ダ・クルスの悲劇のうち、コーサン『ソリマ』と主題が近い『セデキアス』を取り上げて、とくに関連が深いと思われる個所を中心に比較検討を行った。また、ラ・フレーシュ学院におけるコーサン神父の後任であるルイ・セロ神父の『聖アドリアヌス』を選択した。この悲劇はジャン・ド・ロトルー『聖ジュネ』にも一部が援用されているが、フランスの世俗演劇とイエズス会の教育的演劇との関連を明らかにする上での好材料となる。加えて、セロは役者批判に関する弁論を残しているが、これは役者擁護の悲劇として読むことの可能な『聖ジュネ』に『聖アドリアヌス』が利用されている事実とは矛盾していると思われるため、この点に着目して現在に至るまで研究を継続している。以上に加えて、17世紀フランスのイエズス会のコレージュにおけるレトリック教育を明らかにするために、レトリック学者のリシュスルスの文章作法に関する研究を行った。また、コーサン神父が活動したラ・フレーシュ学院での演劇教育の実態を明らかにするために、17世紀初頭のイエズス会の年次報告書および学院の建築計画書を、フランス(国立図書館)において調査した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度の研究テーマである「聖人伝の脚色」として、コーサン『ヘルメニギルドゥス』に加えて、セロの『聖アドリアヌス』の分析に着手することができた。ただし、当初予定していたよりも、先行研究の不足に加えて、ラテン語資料の読解に時間がかかっているため、若干の遅れがみられる。しかし、1年度目の「理論的考察」のテーマに関する研究を補うことができたために、遅れにはさほど問題がないと考えている。またフランス悲劇との関連についての研究は、次年度にも継続して行いたい。
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Strategy for Future Research Activity |
3年度目の研究は「宗教的レトリックの機能」であるが、このコーパスとしてはコーサン神父、セロ神父の宗教悲劇を対象とする。それによってフランスの世俗悲劇との比較分析を進める。また、最終年度であるため、1、2年度目のテーマである理論的考察及び聖人伝の脚色という問題設定についてもまとめる必要があり、これらの点からも悲劇作品だけでなく、序文や献辞をはじめ、他のテクストにみられる演劇観を研究する。
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