2015 Fiscal Year Research-status Report
フランス古典主義演劇の成立期におけるキリスト教悲劇
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25770125
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
千川 哲生 立命館大学, 文学部, 准教授 (50587251)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | フランス / イエズス会 / 演劇 / キリスト教 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度に引き続き、フランス17世紀のイエズス会コレージュ演劇の研究を行った。主に対象としたのは、ラ・フレーシュ学院で17世紀初頭に教師の職務として劇の創作に取り組んだ、ニコラ・コーサンとルイ・セロである。両者が教育の枠組みと理念を意識しながら、どのように演劇に価値を見出し、創作上の工夫を行っているのかという問いを立てて、個々の作品に即して読解可能性を探りながらその解決を試みた。コーサンは近世の「世界劇場」の理念を実現する場として演劇を捉え、視覚と聴覚へ訴える演劇の説得的機能の可能性を追求している。一方のセロは、コーサンのようにレトリックの実践の場として演劇を矮小化することはない。変装や錯誤などのドラマトゥルギーを活用し、当時には珍しく喜劇的な調子の作品を執筆しているからだ。ところがセロは、このように実際に演出されることを想定した作品を発表しながらも、『弁論集』の中で、演劇批判の論を展開している。これは一見して矛盾した営みである。しかしその論拠と議論構成を分析すると、道徳的な条件を課した上で、可能な演出と劇場の状態を探っていることが分かる。このセロの態度は、イエズス会が演劇批判のスタンスを守りながら、コレージュでは生徒たちに上演を行わせるという詭弁的な取り組みを推進していく風潮に先鞭をつけたということができる。このレトリック教育に関して、コレージュの枠組みの外で教育を行っていた、在野の教師であるリシュスルスの執筆に関する思考をまとめた論文を発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
イエズス会の教育演劇の読解に、想定していた以上の時間と労力がかかっている。ニコラ・コーサンの5篇の悲劇、そしてルイ・セロの5篇の戯曲の読解を一通り終えて、現在、論文を執筆中である。しかしそのブラッシュアップのために、補足的な資料調査と、関連文献の読解が必要だと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
従来通りの方法を用いて、研究を進めるという方針に変更はない。ただし、研究の若干の遅れを取り戻すために、より多くの時間とリソースを割り当てる必要があると考えている。また、論文執筆の過程で判明した問題点や、調査不足の点を解決する必要がある。そのため、最終年度は、補足資料を収集するため、フランスへの一定期間の滞在を行い、現地の図書館での調査を実施する予定とする。
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Causes of Carryover |
本研究を推進するに当たって、資料読解に想定していた以上の時間がかかったため、一部遅れが生じている。それを取り戻す必要がある。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
資料収集のためにフランスへの旅費、滞在費に充当することを計画している。
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