2013 Fiscal Year Research-status Report
中国近世北方系「家将もの」通俗文芸の普及に関する考察―構造形成期と量産期から―
Project/Area Number |
25770136
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Meijo University |
Principal Investigator |
松浦 智子 名城大学, 理工学部, 助教 (40648408)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 北方系「家将もの」 / 山西地域 / 楊家将 / 薛家将 / 征播奏捷伝 / 国際情報交換 / 文物調査 / 挿絵 |
Research Abstract |
本研究は、明清に量産された楊家将、狄家将、呼家将、薛家将等、世代累積型構造の北方系「家将もの」通俗文芸が、近世中国の文化・社会に影響力をもつに至った要因を体系的に考察する事を目指すものである。「家将もの」の形成には、山西地域が深く関わっていると推定される。そこで初年度(H25)は、9月に保徳、候馬、稷山、平遥など山西各地を巡り、未公開資料を含む唐、宋、金、元、明期の文物を、Hong Jee Hee氏(米国シラキュース大学准教授)、飯山知保氏(早稲田大学高等研究所准教授)らと共に調査した。結果、薛仁貴の子孫を名乗ると思しい薛氏唐代碑2基や、「衣錦還郷」の文字を有す金代墓碑など、特に薛家将形成に関わる文物を複数確認し得た。当該史料は、H26年度以降に推進予定の薛家将研究に資するものと考えられる。 同時に、楊家将研究を進めるべく、楊家将故事形成に関与した播州楊氏を題材とする『征播奏捷伝』の挿絵研究を行った。明期の小説・戯曲の挿絵を網羅的に調査する手法により、本小説が楊氏一族や楊家将故事に関する情報をもつ金陵の書肆により刊行された蓋然性が高いという新知見を得た。本成果は、8月に上海復旦大学で行われた「第9回明代文学会」で「≪征播奏捷伝通俗演義≫的挿図与其出版背景」として口頭発表した。その後これに、9月に北京大学で行った『楊家府演義』の版本実見調査の結果を加え、解説論文「『征播奏捷伝通俗演義』の挿画」(『中国古典文学挿画集成』「小説集四」所収。2014年5月出版予定)として結実させた。また、北京大学での版本実見調査で得た知見は、二つの楊家将小説『北宋志伝』『楊家府演義』の編集時に用いられた「旧本」等について考察する論文「『北宋志伝』と『楊家府世代忠勇通俗演義伝』―その編著者、旧本、前後関係について」(『名城大学人文紀要』105、2014年3月)を作成する際にも、不可欠なものとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
美術史を専門とする米国シラキュース大学准教授Hong Jee Hee氏や東洋史を専門とする早稲田大学高等研究所准教授飯山知保氏ら他領域の研究者と、情報交換をしつつ共同で行った山西のフィールド調査において、従来未指摘であった薛家将関連文物を複数見いだし、H25年度の計画目標通り、薛家将研究を文物資料面から一歩進めることができたため。また、この成果は、H26年度以降推進予定の薛家将研究の、有用な足がかりとなるものである。 同時に、楊家将研究においても、挿絵研究という新角度から、楊家将故事形成に深く関与した播州楊氏を題材にとる『征播奏捷伝』について新知見を得ることができた上に、大陸での版本実見調査を通して二つの楊家将小説出現の前提となった「旧本」について、新たな見解を得ることができたため。
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Strategy for Future Research Activity |
H25年度に得た薛家将関連の文物新資料を用いて、薛家将研究を進める。その際、宋、元、明、清期の文学・文献資料の再調査も進め、これらと文物資料との突き合わせをおこなう。 また、H26年度の計画目標としている楊家将研究の新資料『出像楊文広征蛮伝』の検証を進めるべく、内府彩色絵本の網羅的調査を行う(現在進行中)。内府彩色絵本の調査にあたっては、版本研究で成果を上げている上原究一氏(慶応義塾大学斯道文庫所属、日本学術振興会特別研究員PD)の協力を得る(承諾済み)。 これらの成果を、口頭発表し論文にまとめる。 H27年度以降は、狄家将と呼家将の故事形成に関する検証を進めると同時に、明清という量産期に刊行された「家将もの」文芸の横断的・網羅的調査を進める方針である。ただし、文物の実見調査も、引き続き他領域の研究者と協力しながら進めて行く。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
H25年度末に購入予定であった中国語図書を、退官した他大学の研究者から譲りうけたことと、同年度末に調査出張予定であった東洋文庫に、現任校の校務の関係で赴くことができなくなったため、36,286円分の繰越金がでた。 H25年度の繰越金で、当該年度中に実行できなかった、東洋文庫への調査出張を行う予定である。
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Research Products
(3 results)