2014 Fiscal Year Research-status Report
ドイツ語における否定概念表現の通時的研究―nichtとkeinの文法化を中心に
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25770143
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
西脇 麻衣子 東京大学, 人文社会系研究科, 研究員 (60613867)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 否定 / 話法の助動詞 / アスペクト / 中高ドイツ語 / メレオロジー |
Outline of Annual Research Achievements |
1.同一文中の二つの否定要素が互いに打消し合わずに文全体として否定の意味を保つことを否定呼応というが、中高ドイツ語期までの否定表現のあり方は、現代標準ドイツ語と異なり、この否定呼応が一般的であった。本研究では、nihtによる単独の否定表現が増加してきた中高ドイツ語期において、どのような文脈で否定呼応が保たれるかについて意味論的に説明することを目指した。コーパスには『ニーベルンゲンの歌』を用い、頻出度の高いne+nihtのタイプの否定呼応について検討した。その結果、先行研究で指摘されているように、否定呼応は話法の助動詞と多く共起されることが統計的に確認できた。また、本研究によって、否定呼応は不定詞句の未完了アスペクトと相関があるということが分かった。一方、文がnihtのみによって否定されている場合、このような相関関係は見られなかった。メレオロジー(部分と全体の関係に関する学説)の観点から見ると、否定されているのは、不定詞句が表す出来事それ自体ではなく、その完了であると考えられる。したがって、上記の相関関係は、不定詞句の命題を表す部分と話法の助動詞のモダリティを表す部分とにそれぞれ否定の標識がつくと考えることで説明し得る。この研究結果について日本独文学会秋季研究発表会で口頭発表を行い、その後、論文としてまとめた(投稿中)。 2.本研究課題では、個々の文法化現象を考察するだけでなく、文法という概念について検討することも課題であるため、言語がどのようなものとして捉えられてきたかについても考えていく必要がある。その一環として、E. Leiss著『Sprachphilosophie』(de Gruyter、2012年)の翻訳を行った(共訳、出版準備中)。なお、1で述べた言語に対するメレオロジー的発想は西洋中世の思弁文法に端を発するが、この考え方は現代では上記の著者にも受け継がれている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記の「研究実績の概要」で述べたように、口頭発表や論文として研究成果をかたちにすることができたため、研究はほぼ計画通りに進んでいると自己評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
ドイツ語の否定辞keinの文法化に関し、古高ドイツ語期から現代ドイツ語の方言まで通時的に考察する。
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