2013 Fiscal Year Research-status Report
チベット・ビルマ語派ルイ語群と周辺言語との言語接触にかんする研究
Project/Area Number |
25770154
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Kobe City University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
藤原 敬介 神戸市外国語大学, 外国語学研究科, 客員研究員 (00569105)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | チベット・ビルマ語派ルイ語群 / カドゥー語 / ガナン語 / チャック語 / アンドロ語 / シャン語 / 歴史言語学 / 記述言語学 |
Research Abstract |
2013年8月にバングラデシュに渡航した。そしてCak-English-Bangla Lexiconのうち機能語をのぞくほぼすべての語彙(5000語程度)について、英語とバングラ語で語釈をつける作業が終了した。 2013年8から9月、12月から2014年1月、および2014年2月から3月にかけてビルマに渡航した。そしてカドゥー語とガナン語について民話のかきおこしを中心とした作業を継続するとともに、タイ系のシャン語の方言であるシャン・ニー語(タイ・ナイン語)についても基礎的な語彙・文法調査を開始した。平行して、シャン語からの借用語についても調査をすすめた。カドゥー語については、これまで調査してきたモーテイッ方言だけでなく、マエン方言やモーラン方言についても基礎的な調査をおこなった。その結果、マエン方言にはガナン語的な要素も散見されることがわかった。モーラン方言については、入破音のような音声が観察された。これはカドゥー語と同系のチャック語には存在するけれども、カドゥー語やガナン語には従来観察されてこなかった特徴である。ルイ祖語の段階で入破音が存在していたことを示唆する重要な発見であるとおもわれる。 2014年3月にはインド・マニプール州に渡航した。そして、アンドロ人やセンマイ人をはじめとする、ルイ系民族の村を数箇所訪問し、言語状況について初歩的な調査をおこなった。その結果、ルイ系民族は現在ではマニプール州の公用語であるメイテイ語を使用しているけれども、伝統的な儀礼においては、古メイテイ語やルイ系言語を使用していることがわかった。ただし、儀礼言語を実際に調査することは、実質的にはかなり困難であるとおもわれる。 上記の臨地調査のほか、大阪でシャン語の基礎語彙調査をおこなった。 おもな成果としては、カドゥー語音韻論をあつかった論文と、死語であるアンドロ語を再構した学会発表がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
チャック語については、Cak-English Lexiconの作成が機能語の部分をこのしてほぼ完成している。ただし、ラテン文字式にABCの配列とするか、インド系文字式の配列とするかがまだ決定できておらず、見出し語の再配列をおこなう作業については、かなりの時間と手間がかかるものと予想される。 カドゥー語とガナン語については、シャン語からの借用語を同定する作業を地道にすすめている。また、これまでに調査できなかった方言について調査できるみこみがたってきたことにより、ルイ語群の比較研究の幅がひろがってきている。ただし、調査対象がふえることにより、資料の整理にさらに時間がかかることが懸念される。 シャン語については、標準的なシャン語について大阪で基礎語彙の収集を中心とした作業がほぼ終了している。ビルマでは、カドゥー語やガナン語と直接接触しているシャン・ニー語(タイ・ナイン語)について、基礎的な語彙・文法調査が完了した。 インド・マニプール州での調査は、科研費申請時には可能であるかどうかが不明瞭であった。しかし、調査そのものは可能であることがわかった。ただし、ルイ語群と直接かかわる儀礼言語については、調査がきわめて困難であることもわかった。 以上より、研究はおおむね順調に進展しているとかんがえられる。
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Strategy for Future Research Activity |
チャック語についてはひきつづきCak-English-Bangla Lexiconの編集をすすめる。2014年度のうちに、原稿を完成させたい。 カドゥー語とガナン語については、これまで調査ができなかった方言についても調査できるめどがたってきたので、方言調査を優先したい。これまでの調査経験をいかして、ルイ諸語の比較に重要な語彙と基礎語彙ならびに基本的な文法項目をまとめた「ルイ諸語比較調査票」を作成し、効率よく資料を収集したい。 シャン語についても、William GedneyによるComparative Tai Source Bookなどをもちいて、比較言語学的な観点から資料を収集するようにこころがけたい。 インド・マニプール州のルイ系言語については、現地調査は困難であるけれども、ルイ系民族のひとつであるパイェン人によるパイェン語の語彙集を入手することができた。この語彙集はパイェン語とメイテイ語がバングラ文字で表記されて比較対照されている。今後はこの語彙集の内容を検討する予定である。
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