2014 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
25770168
|
Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
大石 衡聴 立命館大学, スポーツ健康科学部, 任期制講師 (40469896)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 文処理 / 時間周波数解析 / 事象関連電位 / ガーデンパス文 / P600 / N400 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の目的は、時間周波数解析という新しい解析手法を用いて文を処理している間の脳反応を分析することを通し、これまで用いられて来た事象関連電位 (Event-related potential: ERP) では検証することの出来なかった文処理研究上の重要な疑問を解決することである。当該年度においては、表面上は同じ形態的特徴を持つP600が惹起されることが英語やオランダ語を対象とした研究によって明らかにされているガーデンパス文(例:The horse raced past the barn [fell].)と semantically reversible文(例:For breakfast the eggs would [eat]...)とを呈示した際の脳の律動的活動 (oscillatory activity) を比較した(例文中の[ ]内の単語がターゲット語)。 まず、それぞれの文タイプでP600が惹起されていることを確認するためにERPを分析したところ、ガーデンパス文(例:警官が犯人を捕まえた[青年に]謝礼した。)ではP600に先行して潜時200ms周辺での陽性波が観察された。一方、semantically reversible文(例:緑の葉っぱが生まれたてのイモムシに[かじりついた]。)では、予測に反して、P600ではなくN400が惹起された。次いで、同じ脳波データに時間周波数解析を実施したところ、それぞれの文タイプに対して異なる帯域での有意な活動が認められた。 上述のように、semantically reversible文ではP600が惹起されなかったことから当初のリサーチクエスチョンを解明することはできなかったが、律動的活動を観ることで認知的処理の差異に言及することができることが明らかになったと言えよう。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当該年度は、現在の所属機関に異動した初年度であったため、担当する講義の準備や実験設備のセットアップ等に大幅に時間を割かざるを得なかったため、予定していた実験を実施することが出来なかった。その分、手持ちのデータを用いて時間周波数解析の有用性を広める活動に力を入れ、当該研究分野の研究の進展の寄与に努めた。
|
Strategy for Future Research Activity |
【研究実績の概要】の欄で述べたように、他の言語で用いられたsemantically reversible文と同様の性質を持つ文(例:緑の葉っぱが生まれたてのイモムシに[かじりついた]。)を呈示した際、P600ではなくN400が惹起された。この結果はsemantic P600が観察されたことを論拠とする文処理モデルの妥当性に疑問を投じるものである。さらに、時間周波数解析を実施した結果、本研究で用いたsemantically reversible文では(ERP反応としては意味的逸脱を反映するとされるN400が惹起されていたが)統語逸脱文を呈示した際に有意な活動が観察されることが報告されていたベータ帯域での活動が観察された。このことは、同じ脳波データに対して事象関連電位と律動的活動の両方を解析し、その結果を照らし合わせることで、文を処理している間の脳活動について従来以上に多面的な検証が可能となることを示唆している。以上の事を考慮に入れ、本研究課題では、よりシンプルな統語的逸脱文、意味的逸脱文を呈示した際の脳の律動的活動を明らかにし、その結果からsemantically reversible文を読んだ際の認知的処理の内容を明らかにして行く。さらに、本研究課題で用いたsemantically reversible文に対する脳反応と、他の言語を対象とした先行研究で用いられた文に対する脳反応との間の乖離の原因を検証することを通して、文理解メカニズムの中身にさらにコミットしていく。
|
Causes of Carryover |
当該年度は異動初年度であったため研究に割ける時間が限られていたことと、異動先での実験設備が整っていなかったことが原因で、予定していた実験を実施できなかった。また、それにより、予定していた国際学会での発表も叶わなかったため、繰り越しが発生した。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度には、予定していた実験の実施およびその結果に基づく対外的成果発表を実現すべく、準備を進めて行く。実施の目処が立たない場合には、他所の研究機関の実験設備を拝借し、また、その研究機関に所属する学生等を雇い上げて実験を代行してもらうことで人件費を歳出する。
|