2013 Fiscal Year Research-status Report
中世漢字片仮名交じり文における小字仮名を中心とした書記史的研究
Project/Area Number |
25770174
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
|
Research Institution | Sugiyama Jogakuen University |
Principal Investigator |
村井 宏栄 椙山女学園大学, 国際コミュニケーション学部, 講師 (40610770)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 漢字片仮名交じり文 / 小字仮名 / 日本語書記史 |
Research Abstract |
本研究課題は中世漢字片仮名交じり文献を対象に、表記種連続の類型とその個別的特徴、わけても小字仮名の実態を中心とした書記様式を実証的に検証することで、12~15世紀の漢字片仮名交じり文書記システムを明らかにしようとするものである。かかる研究目標の下、初年度の成果としては、中世仏教者の一人として親鸞関係遺文を分析対象とし、資料ごとの書記様式の調査を行った。中世漢字片仮名交じり文献を分析する際、小字仮名という現象について、前提として、分かち書き、朱点(句読点の役割か)といった言語分節の境界表示手段との関連性を考慮に入れる必要性を示した(名古屋大学国語国文学会春季大会シンポジウム)。 同じ漢字片仮名交じり文で記された親鸞関係遺文であったとしても、『尊号真像銘文』『一念多念文意』『唯信抄』『唯信抄文意』の各資料には〈大字仮名+小字仮名〉の表記連続は一般的に見られず、一方、分かち書きを多用しない『西方指南抄』ではこの表記連続が多く見られることが判明した。『三帖和讃』についても〈大字仮名+小字仮名〉表記は見られるが、その小字仮名部分は「ニ」に集中することを示した。このことは、研究代表者がかつて行った観智院本『三宝絵詞』・延慶本『平家物語』の調査結果と共通し、テキスト性に拘束されない一定の書記様式である可能性が認められる。『三帖和讃』は韻文形式であり、各句ごとに改行が施されることから仮名を小字化する必然性に乏しいはずであるが、仮名の小字化は、懇切丁寧な振り仮名、豊富な左訓注釈、朱点による差声等の事象と並ぶ、徹底的な読み・解釈の向上を狙ったためのものと位置付けた。 ただし、文字の大小、分かち書きなど、その見極めにおいて連続性を持ちうるアナログ的現象に対して、客観的な基準化とそれへの批判的検討をいかに執り行っていくのかについては今後の課題と言え、次年度以降検討していく必要性が生じた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は当初の予定通り親鸞関係資料の分析を行い、明らかになった問題点とともに口頭発表を行った(2013年度名古屋大学国語国文学会春季大会シンポジウム)。当初の予定には含まれていなかったが、親鸞関係遺文の書記様式を概観するという目的で、『尊号真像銘文』『一念多念文意』『唯信抄』『唯信抄文意』の各資料についても、漢字片仮名交じり文の表記様式を確認した。結果、これらの資料群には〈大字仮名+小字仮名〉の表記連続が一般的に見られず、この点、『三帖和讃』『西方指南抄』の2資料とは対照的であるということが判明した。これは書写の段階における分かち書きの有無が最も大きな要因であるという可能性を提示し、新たな側面から解釈を試みた。 親鸞関係資料の用例収集・分析は主として『親鸞聖人真蹟集成』(影印本)を用いて行っているが、宮田(1981)が述べるように、印刷の不鮮明によって、部分的に朱点の存否が明確でない場合があり、調査は複製本も刊行されている『三帖和讃』を優先的に行った。小字仮名の現象は、分かち書きや朱点など、他の言語分節表示手段とともに考えるべきであり、影印本によってもなお確認しきれない部分についてどのように処理を進めていくのか、今後の課題として新たに浮かび上がったと言える。『三帖和讃』の〈大字仮名+小字仮名〉表記については、すべてデータ入力を終えており、他資料との比較を含め、当初の予定通りに進められている。 なお、本研究課題は平成26年2月より研究代表者の産前産後休暇・育児休業による中断に入っており、課題の再開は平成27年4月を予定している。
|
Strategy for Future Research Activity |
当初の予定通り、より多くのジャンルにおける漢字片仮名交じり文の表記実態を収集するとともに、漢字片仮名交じり文と漢字(平)仮名交じり文との本質的な相違点についても考察を進めていく。研究代表者は現在、日本文学・日本史学研究者とともに『源平盛衰記』の全釈作業に参加している。『源平盛衰記』はほぼ同内容の異本として、平仮名文である近衛本、漢字片仮名交じり文かつ古活字版である内閣文庫本、漢字仮名交じり文である蓬左文庫本・静嘉堂文庫本等が知られている。かつ、平仮名文を除く二つの“交じり文”においては、ともに漢字の右下に小字片仮名(平仮名交じり文においても小字は片仮名)で記すという現象が見られており、漢字と平仮名で記された漢字仮名交じり文の中に、なぜ片仮名が紛れ込むのかという点についても、検討を進めていきたい。加えて、従来漢字片仮名交じり文の代表として多く取り上げられてきた『三宝絵詞』や『法華百座聞書抄』、大福光寺本『方丈記』などが、それぞれ元は平仮名本であった可能性が指摘されていることも視野に入れつつ、漢字片仮名交じり文の生成の問題について考究を進めていく。 また、初年度の研究計画で行った親鸞関係遺文の分析過程において、中世漢文文書の助詞表記は、以後の文書に比べて万葉仮名「仁」による助詞「に」の表記が特徴的であるという先行研究の指摘が見られた(矢田2000)。この指摘が有効であるならば、これまで研究代表者が考えていた、和讃・説話文学・軍記物語など、資料のテキスト性によらない「ニ」の小字化という枠を超えて、漢字片仮名交じり文・漢文体という別個の表記体においても共通する興味深い現象ということができる。このことは従来の研究史において詳細な検討は行われておらず、注目していくべきと考える。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究課題の応募時、研究代表者は他大学に所属しており、本研究課題が採択された平成25年4月に転属を行っている。本研究課題遂行の為に用いる資料群は、おおむね旧所属機関よりも現所属機関のほうが多く所蔵しているが、所属機関の変更に伴って個別資料の所蔵の有無は大きく変化した。購入を必要とする書籍について変更を来したことが、次年度の使用額が生じた最大の理由である。ただし、蔵書の利用について時間的な制約が大きいことなどから、新たに購入が必要となった書籍の存在も明らかになった。また、応募時に予定していた学会参加についても、予定外の所属機関の校務等で参加がかなわなかったこともあり、これも応募当初の計画とは変更となった。旅費としての支出が無かった理由である。 本研究計画遂行にあたっての必要な図書類は平成25年度においておおむね購入、または所属機関等において利用することができたので、次年度以降は、『源平盛衰記』等刊行されていない古写本の写真版取り寄せ等を中心に充てていきたい。また、プリンタインク等の消耗品や研究用図書の購入にあたっても、優先順位を見定め、有意義に使用していく予定である。学会参加についても、所属機関の校務との関係で参加できるかどうかが不明な面があり、また本研究課題と関係を有する発表・シンポジウム等が行われるかどうかは未定な面もあるが、学界の最新知見を含みうるものとして、参加に向けて積極的に準備を整えていきたい。
|
Research Products
(1 results)