2013 Fiscal Year Research-status Report
ナラティブアプローチによる新人日本語教師の主体性に関する基礎研究
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25770194
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
牛窪 隆太 早稲田大学, 日本語教育研究センター, 助手 (80646828)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 新人日本語教師 / フィールド調査 / 質的分析 / 修正版グラウンデッドセオリー / 教師環境 |
Research Abstract |
2013年度は、以前から調査を実施している新人日本語教師3名に加え、2名に対するフィールド調査と16名に対するインタビュー調査を平行して実施した。 3名のデータからは、新人日本語教師の教師としての主体性の発露と教育機関への参加が、同時平行的になされるものであることが示された。その一方で、教育機関への参加が「日本語教師の仕事とはこういうものである」という職業理解を超えない場合、与えられた枠組みの中で仕事をこなし再生産するという可能性も示された。このことから、日本語教師にとって「教育機関の移動」が成長に繋がることの背景には、日本語教育の枠組みそのものが問われる経験において、教師が自身が日本語を教える意味そのものに向き合う経験をしているかが重要な要素になってくると考えた。このことから、教師の教育機関への参加をより構造的に捉えるために、16名の新人教師の教育機関への参加における問題点についてM-GTA(修正版グラウンデッドセオリー)を用いて分析を行った。その結果、授業について問題を感じている教師たちは、教育機関において授業を自由に見ることが許されておらず、自力で教授技術を身につけることが求められる一方で、チームティーチングで授業にかかわることにより、割り当てをこなすことが求められるという、個体主義的・同調主義的な環境におかれていることが示された。その一方で、3年目以上の教師からは、教育機関の制約を自己流にアレンジしている教師との出会いや大学院での学びによって「そうじゃなくてもいい」ことに気づき、自身の指針をとらえ直していることも示された。今後、フィールド調査とインタビュー調査を継続することで「日本語を教える意味に向き合う経験」の有無からデータを再検討し、日本語教師の主体性と日本語教育理解のあり方との関連性について検討する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初、10名の新人教師に対するフィールド調査のみを実施し、結果をSCATを用いて理論化する予定であったが、調査前段階で実施した新人教師に対するインタビュー調査から、多くの新人教師が自身の授業に問題を感じながら、その一方で教育機関の中でサポートを受けられないまま、日本語授業を担当しているという問題が見えてきた。そのため、より多くの新人教師の声を捉えるために、インタビュー調査の実施とその分析に時間をかけた。10名の予定であった、フィールド調査は現段階では5名にとどまっているが、M-GTAを用いて、授業に問題を感じている教師たちの環境を分析することで、フィールド調査での観点が定まり、今後、調査を有効に進めていくことができると感じている。当初の計画とは異なるアプローチをとることになったが、フィールド調査を進め、3年以上の経験をもつ教師の語りを集めることで、今年度中に葛藤とその解消までのプロセスの一つのあり方を示せるのではないかと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、5名の教師に対するフィールド調査を継続しながら、3年以上の経験をもつ教師に対するインタビュー調査を実施する予定である。研究計画にあげた、ナラティブアプローチを用いた事例研究を行いながら、それを理論にまとめるために横断的に分析するという手法で、全体をまとめる予定である。ただし、当初予定していた質的研究法では、全体の構造化が困難であることも予想されるため、理論化するための研究方法の見直しを行うつもりである。具体的には、M-GTAを用いて5年目程度までの教師が授業について感じる葛藤とその解消のプロセスを明らかにするという手法を用いる予定である。そのプロセスを5名のフィールド調査によって得られたデータから再解釈し、より汎用性の高いモデルを構築したいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
複数の研究費が獲得できたため、備品の一部の共有が可能となった。また研究計画の部分的変更により、調査協力者への謝金、文字越しのための人件費が支出されなかったことにより誤差が生じた。 今後、継続的な調査を実施することと、インタビュー調査の実施計画により、人件費、謝金を多く計上している。また、組織論、制度論の文献を参照する必要性が生じたため、図書代を計上している。調査旅費は、国内の学会への参加費、また、7月にオーストラリアで開催される「日本語教育国際研究大会」でパネル発表を実施する予定であるため、その参加費を計上している。
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Research Products
(3 results)