2014 Fiscal Year Research-status Report
東国中世武家文書の史料学的研究~鎌倉公方関係文書を中心に~
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25770229
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
清水 亮 埼玉大学, 教育学部, 准教授 (90451731)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 鎌倉府 / 足利持氏発給文書 / 花押 / 関東八屋形 / 享徳の乱 / 東国中小領主 |
Outline of Annual Research Achievements |
1、第3代鎌倉公方足利満兼が東国有力旧族領主の最有力者八家に「屋形」号と朱の采配を与え「関東の八家」として自らの権力基盤に編成したという、いわゆる「関東八屋形」という制度に再検討を加えた。そして、①残存史料のあり方などからみて、鎌倉府の時代には「関東八屋形」は制度としては存在しなかったこと、②14世紀末~15世紀前半(鎌倉公方足利満兼・持氏期)には、千葉・小山・佐竹・結城・宇都宮・小田・那須の七家が「外様」(東国旧族領主の最有力者)、彼らにつぐ待遇を相模守護三浦氏が受けていたこと、③「関東八屋形」の概念は、戦国期にその原形が形成され、近世に形成・確立したことを明らかにした。 2、戦国期に武蔵屈指の有力国衆となった武蔵国成田氏について、鎌倉府権力・享徳の乱と関連づけてその動向を再検討し、①南北朝末期の当主成田泰員が戦国期成田氏の祖といえること、②鎌倉府権力下で成田氏が公方権力に近い存在であったこと、③結城合戦緒戦段階で武州北一揆(成田氏が属する一揆)が関東足利氏方に属した背景には、成田氏と鎌倉公方の親密な関係があったこと、④成田氏が本拠とした成田は、15世紀には武蔵北部の要地となっており、かつ関東足利氏(古河公方)と上杉氏の軍事的境界地域のなかにあったこと、⑤成田氏が戦国期の有力国衆となりえた背景には、本拠地成田の軍事的重要性に加え、古河公方方にも上杉方にも強固に組み込まれない成田周辺地域の特性があったことを論じた。 3、足利持氏発給文書の花押を再検討し、花押の形状を分類するための採寸・比率算出の基準をほぼ確定し、それに沿って花押の分類を進めた。また、足利持氏発給文書の事例を追加し、計220点を確認した。 4、足利持氏発給文書原本の調査・撮影と写本・影写本等の調査と収集、鎌倉府関係文書をはじめとして室町期の東国に関わる文書群・写本群の調査・撮影および複製の収集を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1、足利持氏発給文書の原本調査、写本・影写本の画像データの収集を進めることができた。さらに、花押の分類を進める上での採寸・比率算出基準を精密に定義し、数値的データに立脚した花押の形状分類を進めることができた。また、新たに足利持氏発給文書の事例を追加し、計220点を確認できた。 2、室町期の東国に関わる文書群・写本群の調査を進め、鎌倉府関係文書をはじめとした室町期の東国政治・社会にかかわる文書データの収集を進めることが出来た。 3、鎌倉府が東国有力旧族領主を編成する制度として理解されてきた「関東八屋形」制を再検討し、この制度が鎌倉府時代には存在しなかったことを論じた。その上で、14世紀末~15世紀前半における東国武家社会の家格秩序、「関東八屋形」概念の形成過程について私案を提示した。この成果によって、鎌倉府の東国有力旧族領主政策や当該期の武家家格秩序といった、鎌倉府に関わる根本的な事柄を理解・検討する新たな手がかりを提示することができた。 4、武蔵国成田氏と武州北一揆を主な題材として、鎌倉府体制下・享徳の乱における東国中小領主の動向を明らかにするとともに、戦国期との連続性について見通すことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
1、本年度中に確定した足利持氏花押の分類基準に則して、花押が残っている足利持氏文書の分類・無年号文書の年代比定を進める。 2、上記の作業を進めつつ、足利持氏発給文書の全体像についての論文、足利持氏花押の経年変化に関する論文を執筆する。 3、足利持氏発給文書・足利成氏(第5代鎌倉公方・初代古河公方)関係文書をはじめとする鎌倉府関係文書のなかで原本未調査、原本写真・写本・影写本データ未入手の文書をリストアップし、それをふまえて、今後の文書調査の計画を再策定する。 4、1~3の作業をふまえ、足利成氏を中心とした鎌倉府・古河公方関係文書の収集・分析・検討をさらに進める。
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