2014 Fiscal Year Research-status Report
中近世の外交遺産の蓄積と流通―入明記と大蔵経を軸として―
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25770233
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
須田 牧子 東京大学, 史料編纂所, 助教 (60431798)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 入明記 / 大蔵経 / 日明関係 / 日朝関係 / 遣明船 / 策彦周良 / 大内氏 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の具体的な研究活動は3つの柱で構成される。①日明関係史料群の調査と翻刻、②中世日朝関係のなかで輸入されてきた大蔵経の所在調査と関連史料調査、③日朝・日明関係に深く関わった西国の大名大内氏の京都での活動の検討。 柱①については、『描かれた倭寇―倭寇図巻と抗倭図巻』が発刊されたのが第一の成果である。東京大学史料編纂所所蔵「倭寇図巻」・中国国家博物館所蔵「抗倭図巻」がともに日明関係の掉尾に位置する嘉靖の遣明船にも関わる絵画史料であることを明らかにし、日明関係史料のすそ野を広げたものになっている。第二に「策彦入明記録及送行書画類」に所収されるいくつかの史料について、その史料的性格について追究し、得られた知見の一部をまとめ、二か所で報告した。ただし知見の大半はまだ公表に至らず、次年度を期すことになってしまった。第三に「策彦入明記録及送行書画類」に所収される未翻刻史料の翻刻を本年度も継続して行ない、数点について8割程度完成させたが、公表できるレベルまでにはまだ至っていない。 柱②については、関西方面の大蔵経の調査を昨年に継続して行ない、重要な知見が得られている。引き続きの調査の継続を期すものである。 柱③については京都の貴族の日記の翻刻を行ない、応仁文明の乱時の大内氏の動きなどをおうことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要のところでも述べたように、本研究の具体的な研究活動は、①日明関係史料群の調査と翻刻、②中世日朝関係のなかで輸入されてきた大蔵経の所在調査と関連史料調査、③日朝日明関係に深く関わった西国の大名大内氏の京都での活動の検討、の三本の柱によって構成されている。もともと柱①②は研究活動の性格により、外部的な状況によって遅速があることを予想し、どちらかが遅くなったときはどちらかを進め、どちらもダメだったときは、柱③を主として進めるようなかたちで柔軟に対応ができるようにしていたものである。しかし今年は、3本がほぼ同じペースで進んでしまったため、昨年度、予定以上に進んだ柱②については順調に進捗したが、その結果、予定よりやや遅れていた柱①の研究進度の遅れを取り戻すには至らなかった。具体的には研究成果は蓄積しながらも、当初予定していた研究成果の公開を充分行なうことができなかったものである。柱③についてはおおむね順調に進捗しているので、全体として遅れているとまでは言えないが、次年度は再調査も視野に入れつつ柱①のテコ入れを図りたい。
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Strategy for Future Research Activity |
研究活動の三本の柱を中心に、柔軟な対応を心掛けつつ、予定よりやや遅れている柱①のテコ入れを図りながら、研究を進める。具体的には第一に、「策彦入明記録及送行書画類」の史料研究を推し進め、写本の作成・伝来状況を整理するとともに、その作成と伝来に携わった人脈の復元を試みる。また未だ残る関連未翻刻史料の翻刻を急ぎ、完成度をあげたうえでしかるべき公表方法を検討する。 第二に柱②について、前年度・前々年度の大蔵経研究の蓄積を踏まえ、諸機関との調整を図りながら慎重に調査を進めていく。調査にあたってはその来歴を明らかにできるようにするとともに周辺史料の収集を進め、流通の事情を明らかにできるよう努める。 第三に柱③について、大内氏の在京活動と外交人脈について、主として京都・奈良に散在する史料の調査収集を行ない復元を試みる。
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Causes of Carryover |
主として旅費の節約の結果である。第一に、スロベニアでの学会報告にあたり、同時期に近隣国で別件の用事が出来したために、往復旅費の科研費での支出をやめ、現地集合現地解散のかたちで学会中の宿泊費・日当のみの旅費支出とした結果、大幅な経費節約となった。第二に中国杭州での学会は、最終的に招待講演者の扱いとなり、往復旅費と学会中の宿泊費が支給されたため、別途予定していた現地調査中の宿泊費・日当のみの支出で済み、こちらも大幅な節約となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
中国杭州での学会終了後、ごく短時間におこなった現地調査の結果、入明記の読解に関わる重要な成果が得られた。本課題に先行する科研の調査の際には入明記の史料的研究が途上であったために、不十分なところが残ったものと考えられる。入明記の正確な読解と位置付けを目指すため、同様の弱点をかかえた浙江省北部の現地調査を行なう必要があり、そのための旅費として使用する予定である。
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