2015 Fiscal Year Research-status Report
文禄~元和期を中心とした近世的銭統合過程の基礎的研究
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25770248
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Research Institution | Yasuda Women's University |
Principal Investigator |
高木 久史 安田女子大学, 文学部, 准教授 (50510252)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 播磨 / 但馬 / 彦根藩 / ビタ / 中世手形類 / 近世紙幣 / 金 / 銀 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度に引き続き、16~17世紀すなわち日本中近世移行期の銭使用秩序の統合過程に関する地域別ケーススタディを実施した。播磨・但馬・近江の状況に関する論考を発表することができた。 播磨・但馬については、一五七〇年代以降に銭のプレゼンスの縮小が見られる一方で特定の通用銭を基準銭より減価して使用する現象は見られなかった。近隣諸国と対照的である。また銀については播磨では使用例が見られる一方で銀山膝下たる但馬では使用例を確認できなかった。金については、播磨・但馬ともに一五七〇年代以降に使用例を確認した。一五七〇年代以降の金使用の普及は京都・近江・紀伊の状況とおおむね共時的である。 近江については、17世紀初頭の彦根藩の経理記録を研究史上再検出した。この記録から、17世紀第1四半期において、幕府基準通貨(慶長金銀・ビタ)を彦根藩が基準通貨として採用したことを明らかにした。当該時期に諸藩が幕府通貨に対しどういう態度をとったのか(積極的に受容したのか拒否的反応を示したのか)、従来の研究では必ずしも明らかでなかったが、その一端を復元することに成功した。銭使用秩序の統合過程という点では、幕府がビタを基準銭に採用した一方で、近江の市場ではビタが上・中・下の三層に分化し、異なる価値で流通していたことも実証した。この現象は従来、京都では確認されていたが、本稿により、その現象が京都に限定されず広域的に存在したことが明らかになった。 また派生的研究として、中近世移行期の手形類の機能の近世紙幣への接近につきサーベイを行い、中世手形類と私札との連続的要素を複数確認した。例えば私札の預状形式が中世以来の徳政回避機能の期待を継承していることや、中世の紙券選好の経験等、近世紙幣と15~16世紀の手形類との連続性ならびに日本中世的歴史性(西欧初期紙幣と必ずしも共通しない要素)を見出す視点を示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
単に史料検索を実施したというだけでなく、中近世移行期の通貨使用秩序の諸地域の個性を復元することができたこと、ならびに、本研究課題の主要対象である金属通貨だけでなく、紙幣について、同時期の金属通貨と関連づけて分析を行い、論考を発表することができた。このように、実施した史料検索作業に見合った分析結果を出し、かつ当初の想定より幅が広い議論を展開することに成功した。以上の点で計画以上の進展を認めることができる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究事業でこれまで実施した方法論による分析の結果、毎年度着実に論考を発表することができた。これは当初設定した方法論に瑕疵がなかったことを意味する。今年度も同様の史料検索を実施する。また最終年度であることも鑑み、これまで蓄積したデータを総合する論考を作成する予定である。
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Research Products
(5 results)