2013 Fiscal Year Research-status Report
中華王朝における婚姻に基づいた外交について―遼・金・西夏・元を中心に―
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25770258
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
藤野 月子 九州大学, 人文科学研究科(研究院), 助教 (30581540)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 遼 / 婚姻 / 外交政策 / 和蕃公主の降嫁 / 恩寵 / 非漢民族 / 甥舅関係 |
Research Abstract |
これまでの研究を通じ、和蕃公主の降嫁は五胡十六国北朝を承けた隋唐において中国皇帝から近隣諸国へ恵み与えられる恩寵へと展開し、盛んに実施されるに至ったということについて指摘した。一方、10世紀以降に建国された遼をはじめとする西夏・金・元の非漢民族王朝では、婚姻に基づいた外交政策の実施が再び盛んに見られる。従って、まず遼における婚姻に基づいた外交政策の実態を解明することから取り組んだ。 遼は建国以前の唐代前半に唐から幾度も和蕃公主の降嫁を受けており、これを恩寵として捉えていた。しかし、唐の勢力が衰退し始めた安史の乱の前後へ至ると、単なる足枷にしか過ぎなくなってしまった。唐代後半以降、遼はウイグルの傘下へと入る。ウイグルの政治的な影響力が強く及んでいた遼は、唐からウイグルへ行われた和蕃公主の降嫁が、ウイグルが唐から莫大な額の資装費をせしめるためであったということを把握していた。 五代において、後梁の朱全忠と耶律阿保機との間で盟約が締結された(最終的に不成立)。この際に注目すべき点は、遼自身がこれまで記憶・経験してきた和蕃公主の降嫁という外交政策の実態を踏まえて充分に認識した上で、耶律阿保機は朱全忠と対等となるべく、両者の間で甥舅(婿と舅)関係を結ぼうとしていたことである。 慶暦2(1042)年、北宋と遼との間で以前に取り決められていた盟約を改定する交渉が行われた。当該交渉を巡って遼は北宋に対し、終始一貫して主導権を握り、最終的に歳幣の増額を獲得している。このような成果を達成することが可能であったのは、唐代及び五代を通じ、遼は中原王朝との婚姻に基づいた外交政策が有する性格及びそれがもたらす影響を確実に認識していたためである。逆に交渉を有利に運ぶための手段として婚姻を用いるに至ったというこの背景には、当時の遼における高度なレベルにまで展開を遂げた外交戦略の姿を窺うことが出来る。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、慶暦2(1042)年、北宋と遼との間で以前に取り決められていた盟約を改定する交渉に関してのみ考察を行う予定であった。 しかし、実際に研究を進めていくうち、遼が建国する以前、即ち、契丹と呼ばれていた時代に唐から盛んに和蕃公主の降嫁を受けており、それが如何なる意味を有していたのか?如何なる変容を遂げていったのか?についても解明する必要性があることが判明したため、時代を遡って詳細に追究することに成功した。 更に、続く五代諸朝と建国以降の遼との関係についても、従来の研究ではあまり注目されてこなかった「甥舅(婿と舅)関係」の有する意味についても解明する必要性があることが判明したため、時代を遡って詳細に追究することに成功した。 このように、遼の建国前後の時代を通じ、遼が有していた外交戦略の理念及びその展開の過程を考察してきた。そこでは、唐代における和蕃公主の降嫁事例を踏まえてこの記憶・経験を活かし、五代諸朝及び北宋と関係を結ぶにあたって遼自らが優位に立てるよう、外交政策としての婚姻を巧妙に駆使している現実が顕著に示されていたことを、当初の計画よりも一層精緻に分析することが出来た。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの成果を受け、今後は遼が近隣諸国に対して行った公主降嫁の事例について考察することとする。 具体的には、遼から西夏に対して幾度も公主降嫁が行われている。西夏は11~13世紀の東部ユーラシアにおいて北宋・遼と共に三つ巴で対峙した国家である。とすれば、この事例について、それが実施された背景・理念について詳細に検討する必要性がある。 当初の計画では遼が近隣諸国に対して行った公主降嫁を一度に纏めて考察する予定であった。しかし、実際に研究を進めていくうち、西夏に対して行われた事例はとりわけ重要性を含むものであり、当初の見込みよりも、実際に遼が公主降嫁を行った近隣諸国は多岐にわたることが判明した。更に、西夏も当時のチベットに存在した青唐と婚姻に基づいた外交政策を実施するのみならず、北宋に対して婚姻を要求したことも判明した。続いて、当初の計画では最終的に元を巡る婚姻に基づいた外交政策についても考察する予定であった。しかし、実際に研究を進めていくうち、多くの新たな事例の存在が判明したため、雑駁な研究とならないようにすることが必要不可欠である。 よって、今後は当初の研究計画を変更し、遼を巡る婚姻に基づいた外交政策の実態を明確にすることを最終的な目標とする。まず、遼と西夏とを巡る婚姻に基づいた外交政策について追究する。その際、既に明らかとした如く、唐代における和蕃公主の降嫁は時代が降ると共に大きく変容している。遼は建国以前に唐から和蕃公主の降嫁を受け、このことが遼の近隣諸国に対して行った公主降嫁にも大きく影響していることは否めない。そこで、同時に改めて唐における和蕃公主の降嫁事例についても見ていくことにより、唐と遼との比較・検討をスムーズに行えるようにする。続いて、西夏以外の多くの近隣諸国に対して行った公主降嫁について追究し、遼が有していた外交政策の背景・理念について解明する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
支払請求書及び支払申請書の通り、それぞれの年度に予定された助成金額(交付予定額)に基づいて支出している。物品の値段が当初予定していたものより安価だったため。 現在までの段階では、まず、研究環境を整備するため、パソコン等の電子機器を中心に購入することが多かった。今後は、それに加え、自身の所属する機関に所蔵のない書籍の購入や論文の複写を主に予定している。また、海外出張も予定している。また、文献や史料の整理にアルバイトを雇うことも予定している。また、研究成果の論文を各方面へ郵送することも予定している。
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Research Products
(3 results)