2013 Fiscal Year Research-status Report
歴史叙述にみるエスニシティの研究:ヘレニズム・ローマ期イオーニアー地方を中心に
Project/Area Number |
25770265
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
佐藤 昇 神戸大学, 人文学研究科, 准教授 (50548667)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 古代ギリシア / 歴史叙述 / 神話 / ヘレニズム / 小アジア / ミレトス / 東地中海 / 国際関係 |
Research Abstract |
本年度は、ヘレニズム期(前4世紀末~前1世紀)に流布していた、都市ミレトスおよび神域ディデュマをめぐる創建譚、歴史叙述を主たる検討対象とした。先行研究の分析に努め、夏期にギリシア、英国に渡り、資料収集を行い、国内外の研究者と意見交換を重ねた。同時に、同時代史料である、碑文史料及び歴史家断片を用い、当該期の記述に見られる特徴と変化を具体的に検討した。さらにそうした特徴や変化が、いかなる歴史的背景、政治的、経済的情勢の中で生じていたのかについて分析を加えた。 これらを通じ、神話や歴史叙述が、単なる記述ではなく、同時代の歴史的背景の影響を強く受けて記述され、流布していたことが確認された。とりわけヘレニズム時代のミレトスでは、「イオニア植民神話」「イオニア人意識」以外の、ヘレニズム王権、近隣の都市、聖域との同時代的な関係を強く意識した神話、歴史叙述が生まれていたことが明らかとなった。この成果の一部は、翌年度4月の国際学会(アテネ)において報告された。 これまで当該地域の神話、歴史叙述に関しては、叙述された時代の歴史的背景について,深く立ち入って考察を加えた研究はなく、本研究は、まず当該地域の歴史研究にとって大きな意義を持つ。同時に、同様の観点からの研究は、古代ギリシア史及び西洋史全般において盛んに行われているものであり、比較史的観点からも重要な意義を持つものと考えられる。 なお、一部の歴史家断片に関しては、先行研究とは異なる解釈の可能性を見いだし、10月、北京で開催された国際学会で発表する機会を得た。加えて、古典期(前5世紀~前4世紀)アテナイに関して、神話・歴史叙述の問題を取り扱った論文も執筆し、同時代、すなわち古典期のミレトスにおける歴史叙述との関連についても考察を加えた(次年度刊行予定)。さらに神域ディデュマに関する論考(共著)も公刊した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画していたヘレニズム期のミレトスに関して、一年目としては十分な研究成果を得ることが出来たように思われる。概要にも記したように、当該期のミレトス、ディデュマに関する神話、歴史叙述を精査した上で、関連する1編の邦語論文(次年度刊行予定)をまとめるとともに、国際学会において報告(2013年度10月北京及び次年度4月アテネ)を2度行い、全体像について一定の見通しを得ることが出来た。さらに、神域ディデュマに関する調査を基に、神域と神話、歴史叙述に関わる論考をまとめ、共著として公刊した。ただし、研究成果の核となる部分(2014年4月の口頭報告)を活字化するには今少しの整理、再検討が必要となる。とりわけ、周辺地域との関係をより一層視野に入れて検討する必要が出てきたため、論文を執筆するに辺り、ミレトス以外の周辺都市に関する状況をより慎重に検討しなければならない。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは2013年度の成果を受け、2014年4月に行った学会報告を基に、論文を執筆し、海外の専門誌に投稿する。議論をより精緻なものとするために、クラロスやエフェソスなど、周辺都市、周辺聖域との関係、またそれらの地域の神話、歴史叙述についてもより一層の検討を加える。但し、投稿論文の段階では、あくまでヘレニズム期のミレトスを核とし、周辺地域の状況に関しては比較、対象のための関連素材に留める。 また本年度はさらに進めて、ローマ支配下の時代を検討対象に含める。概要にも記したように、本研究では、ヘレニズム期ミレトスにおいて、「イオニア植民神話」「イオニア人意識」以外の神話、歴史叙述が流布し、これが外交にも利用されていたことが明らかにされたが、その様子がローマ支配下にどのような変化を被ったのか、特にこの点に注意を払い、検討することとしたい。 ただし、前半で記した論文執筆には、関連地域の資料を今少し精査する必要があり、そのために予想以上の時間がとられる可能性が考えられる。その場合、後半で記したローマ時代における神話、歴史叙述の変化に関しては、2014年度は基礎的データ収集に留め、成果の発表は2015年度以降に行うものとする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
洋書等を購入するにあたり、レートの変動など細かなところで予算を食い違うことがあったため、最終的にごくわずかだが次年度使用額が発生した。 ごく少額であるため、パソコン関係の消耗品を購入するために利用する。
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Research Products
(3 results)