2013 Fiscal Year Research-status Report
更新世終末期の北東アジアにおける人類の環境適応解明のための比較考古学研究
Project/Area Number |
25770279
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
橋詰 潤 明治大学, 公私立大学の部局等, 講師 (60593952)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 人類の環境適応 / 更新世終末 / 北東アジア / 比較考古学 / 資源利用の変化 / 狩猟具 / 伐採具 / オシポフカ文化 |
Research Abstract |
本研究は,大規模かつ急激な変動を繰り返していた更新世終末期の環境に対する,人類の適応の考察を目的とする。こうした問題意識の下,人類の生存上不可欠な資源利用の変化を捉えることを解明すべき課題として設定した。それは,環境変動に応じて,利用可能な資源(動植物,岩石など)の種類や規模,獲得のために選択可能な行動などが甚大な影響を受けたと想定されるためである。そして,特に人類の生存の根幹となる動植物や,それらの獲得や加工などに必要となる道具の素材である岩石等の資源利用にかかわる,人類の行動解明に焦点を絞ることとした。上記課題解明に向け,1.時間的共時性の高い一括資料の選定と分析,2.当該期における狩猟具,伐採具利用の解明に向けた資料分析,3.アムール川下流域での当該期遺跡の発掘調査を計画した。具体的には,1.については既発掘資料の借用および再整理と分析,2.は日本列島の本州東半の当該期遺跡出土資料を中心とした,狩猟具,伐採具の欠損痕跡の分析,3.はロシア連邦ハバロフスク州の州立郷土誌博物館との共同発掘調査と資料分析作業を実施することした。 本年次は,1.については,長野県佐久市教育委員会より更新世終末期の爪形文土器を伴う資料を借用し,石器の器種分類などの資料分析のための基礎作業を開始した。2.については日本列島の本州東部地域における両面加工尖頭器と石斧の分析を進め,当該期における狩猟具ならびに伐採具の利用の変遷から,動植物利用にかかわる行動の変化を検討するためのデータ整備を進めた。3.についてはロシア連邦ハバロフスク州に所在するオシノヴァヤレーチカ10遺跡の発掘調査を行い,寒冷地特有の土壌攪乱などの影響の少ない遺跡であることを確認し,日本列島の当該期との良好な比較資料を獲得することができた。また,こうした資料分析,発掘調査の成果の一部について学会発表等で公表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現状での進捗状況を確認すると,時間的共時性の高い一括資料の選定と分析については,必要な資料(長野県佐久市寺畑遺跡出土資料)の借用を済ませ,再整理作業を進めている。当該期における狩猟具,伐採具利用の解明に向けた資料分析については,順調に必要なデータ収集と分析が進行している。特に,関東・中部地方の細形尖頭器,木葉形の大形尖頭器,有茎尖頭器,縄文草創期の石斧資料に関する欠損痕跡のデータの確認と分析を進めた。さらに,調査の進行に伴い,新たにデータ取得が必要となった遺跡出土資料の選定についても既に完了している。それらについては次年度中に分析を進める予定である。アムール川下流域での当該期遺跡の発掘調査については,ロシア連邦ハバロフスク州のオシノヴァヤレーチカ10遺跡の発掘調査をハバロフスク州立郷土誌博物館と共同で実施した。本遺跡は,寒冷地性の土壌攪乱や,同一地点の繰り返し利用に伴う人為的な攪乱などの影響を受けていることが多い本地域においては稀有な,非常に良好な堆積環境を有する遺跡であることが確認され,本研究課題解明のために最適の比較資料を獲得することができた。 このようにデータ獲得のための資料の選定や,発掘調査,資料分析については順調に進行している。ただし,分析のための基礎となる既調査資料の再整理作業や,発掘作業とその後の整理作業には時間を要しており,次年度以降も継続してこれらの作業を行う必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
本年次の研究によって得られた成果を基にして,平成26年度も既発掘資料の再整理作業,本州東半部における当該期の狩猟具,伐採具の調査,そしてロシア連邦アムール川下流域での発掘調査を継続する。既発掘資料の再整理作業については,長野県佐久市寺畑遺跡出土資料に加え,新潟県津南町卯ノ木遺跡出土資料を対象に作業を行い,資料の分類や計測,実測等の作業を行う。本州東半部の狩猟具,伐採具の調査については,これまでの調査資料の分析をさらに進めると共に,山形県高畠町日向洞窟遺跡西地区,千葉県成田市一鍬田甚兵衛山遺跡出土の資料調査を行う。さらに,新潟県阿賀町小瀬ヶ沢洞窟遺跡と室谷洞窟遺跡出土資料については,これまでの調査成果に加え補足調査をさらに行う。ロシアでの発掘調査については,平成26年もオシノヴァヤレーチカ10遺跡の発掘を継続し,当地における当該期資料の獲得を進める。ロシアでの調査については,共同研究者との実施の合意を既に得ており,調査の具体的な計画について協議を進めている。 また,現状での分析作業において既に本研究課題の解明につながる成果が得られており,一部を学会発表などで公表した。平成26年度内には,さらに学術論文としてこれらの公表を行うと共に,日本考古学協会,日本第四紀学会などでの学会発表を通じて,研究成果を広く発信する。本研究課題解明のためのデータ獲得については平成26年度内を目途に終了させ,平成27年度はデータの分析と,成果のまとめに取り組む。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度はロシアでの調査に加え,アメリカ合衆国へ出張を行い,本研究の成果発表と本研究で取り扱う地域や時期との比較検討を行った。そのため,当初予定より外国出張旅費を要した。一方で,国内資料の調査については,出張を伴う調査よりも借用をおこない,勤務地において分析が可能なものを中心に進めた。こうした使用計画の変更などの状況に伴い,物品の購入量の調整なども行ったため,次年度への繰越金が生じた。 生じた繰越金については,次年度以降国内での出張を伴う調査の増加や,円安等の影響による海外調査費用の増加が見込まれることから,これらの費用に充てることとする。
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Research Products
(4 results)