2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
25770283
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | (財)元興寺文化財研究所 |
Principal Investigator |
田中 由理 公益財団法人元興寺文化財研究所, 研究部, 研究員 (70611614)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 緑釉陶器 / 測色 / 焼成実験 / 産地同定 |
Research Abstract |
本研究の目的は、これまで客観的なデータによって整理されることのなかった平安期緑釉陶器の釉調の色彩学的検討を包括的に行うものである。平安期緑釉陶器の生産は、東海(愛知・岐阜)、近江、畿内、防長(山口)といった限られた地域で行われたとされており、産地ごとに胎土や釉調が異なることから、それが産地同定の指標となってきた。しかしその色の表現には、これまで濃緑色や淡緑色、若草色などの感覚的かつ主観的な色名しか用いられておらず、客観的な記述が十分になされていなかった。そこでJISの標準色票(目視計測)や分光測色計(器械計測)などの客観的な色を表示するものを用いて、釉調と胎土色の相関関係の多変量解析、分光反射率のグラフの比較など、色の記述や色彩学的検討を試み、これらの方法によって各産地資料のデータを蓄積しているところである。 なおこうした産地ごとの胎土や釉調の差異は、材料や土の成分や質の違いなどによるものと考えられ、産地ごとの成分の比較研究もこれまでなされてきた。しかし釉調は、原料だけでなく、窯内雰囲気など種々の複雑な要因によって変化することから、成分分析のデータは提示されていても、色調との対応関係の検討までは十分に行えていなかった。 これを解決する方法の一つとして、1年目にあたる25年度は、実際に原料の成分が確実に分かっているテストピースを製作し、その焼成実験を行った。本来は、緑釉陶器に用いられる鉛釉など低火度焼成の施釉実験をすることが最善ではあるものの、材料の入手などの困難さから、まずは銅や鉄などの呈色剤が、分光反射率のグラフの上でどのような動きを見せるかを検証するため、高火度での酸化焼成、還元焼成の実験を行い、どのような原料や焼成条件からどのような色の釉調が生まれ、どのような分光反射率になるのかを確かめた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
小型電気窯およびその材料となる各種粘土、釉薬原料、陶芸の道具などを購入し、焼成実験を実施した。陶芸に関しては、当該研究者は全くの素人であったが、元興寺文化財研究所の土器修復室などに陶芸を専門としている者がおり、助言や技術指導を仰ぐことで、テストピースの製作、酸化焼成、還元焼成など、一通りの方法と手順について習得することができ、テストピースのデータも得られた。 一方、本来は25年度も、資料調査を行って、平安時代緑釉陶器の各産地(東海・近江・畿内・防長)の資料の色調の計測や、京都などの消費地資料も計測し色調のデータの蓄積していく予定であったが、これを十分に行うことができなかったので、その点で、達成がやや遅れている。 また色の計測については、もともと元興寺文化財研究所にある分光測色計で計測を行った。ただし付随する色計測ソフトはすでに型が古く、現在のパソコンでは対応しなかったため、分光反射率のデータなどをパソコンで取り込む際に困難さがあり、この点についてもやや達成が遅れていると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、まず25年度に不足していた資料調査を積極的に行い、資料の色調データを蓄積していきたい。なお資料調査の際は、当該研究の研究協力者で、緑釉陶器の研究者である大阪大学の高橋照彦准教授とも共同研究させていただけることになっており、これまでの蓄積が多い緑釉陶器の考古学的な検討結果と、色彩学的な検討がどのように生かせていけるか模索していきたい。 また釉調を復元する焼成実験に関しても、計画的に行っていきたい。緑釉陶器に用いられる鉛釉は、有毒であるためなかなか使用できないと考えるが、無鉛の楽焼釉などが流通しており、これらを用いて、低火度の緑釉陶器の再現もできればと考える。そうしたいろいろな状況で焼成された釉薬に関して、測色や成分分析などの検討を進めたい。 このようにして、緑釉陶器の測色データを蓄積し、それぞれの産地の目視計測結果が一定数ずつ集まった時点で、すべてのデータについて釉調と胎土色の相関関係について主成分分析(多変量解析の一つ)を行うほか、器械計測による分光反射率をすべてグラフにして分析することにより、その産地や時期ごとの傾向を見出していきたい。 また日本文化財科学会などの学会で発表することも予定している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
2月の出張費用が残額より多くなったため、精算をH26年度に繰越した。 H25年度の2月の出張費用を、H26年度の経費の中から支出する。
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