2014 Fiscal Year Research-status Report
インド洋西海域世界の比較研究:資源利用と管理にみる多民族共存と環境・生活影響評価
Project/Area Number |
25770311
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Research Institution | Research Institute for Humanity and Nature |
Principal Investigator |
中村 亮 総合地球環境学研究所, 研究部, 外来研究員 (40508868)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 資源利用・管理 / 多民族共存 / 海洋保護区 / 漁民 / ジュゴン混獲 / インド洋西海域 / タンザニア / スーダン |
Outline of Annual Research Achievements |
インド洋西海域世界の漁民社会の伝統的な資源利用と多民族共存のメカニズムを解明し、開発による自然・生活環境の悪化が懸念されるアフリカ沿岸地域における住民生活の改善・向上を担うプロジェクトへ、文化人類学より貢献することが本研究の目的である。 タンザニア南部キルワ島では、UNESCOやWWFなどの諸団体によって沿岸環境保全と観光開発が2005年頃より始まった。漁民に特に影響を与えたのが、マングローブとサンゴ礁海域における漁撈制限である。ナマコ漁、魚毒漁、小型地引き網漁が禁止された。漁師・漁具のライセンス登録の徹底、沿岸パトロールの強化などによって、漁具を没収された漁師が多数出た。島の女性たちは家計を助けるためにグループ化し揚げ魚の行商を始めた。若者は魚業より観光業を志向するようになった。島の経済構造が変化したが、文化構造の変化としては、邪術の横行と対抗邪術としての精霊信仰の再興がある。2005年頃より島には邪術が横行し始めた。それに伴い対抗邪術としての精霊信仰が盛んになった。2008年には島に3人もの精霊司祭が誕生した。環境影響評価とともに、沿岸環境保全が当該地の経済・文化構造に与える影響の評価も必要である。 2014年には沿岸環境保全の諸団体が撤退し、禁漁の漁撈活動が復活した。沿岸パトロールもなくなった。これにより島の漁獲生産が上がり、女性の揚げ魚行商がさらに活発化した。鮮魚取引も開始され、キルワ島の漁業は発展の一途をたどっている。しかし一方で、魚の商品としての需要が増大したことにより、生産地の人びとが魚を食べることができない皮肉な状況に陥っている。さらに、老人や寡婦への余剰魚の喜捨慣行もなくなりつつある。このような現象はキルワ島に限ったものではなく、今日のアフリカ漁民社会に共通の問題であると推測できる。これに漁民社会がどのように対応・適応してゆくのかを今後の課題としたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画にもとづき、毎年度スワヒリ海村における現地調査を実施することができている。研究成果も随時、分担執筆5本、雑誌論文2本(うち査読1)、学会発表7回(うち国際学会3回)、招待講演1回などによって公表することができた。 代表者のスワヒリ海岸部における研究(Nakamura R. 2011 "Multi-ethnic Coexistence in Kilwa Island, Tanzania: The Basic Ecology and Fishing Cultures of a Swahili Maritime Society", SHIMA 5(1): 44-68.)が、2014年以降国際ジャーナルにおいて引用され始めており(Quintana and Horton 2104 "Fishing and Fish Consumption in the Swahili Communities of East Africa, 700-1400 CE" Human Exploitation of Aquatic Landscapes, special issue [ed. Ricardo and Meadows], Internet Archaeology. Fleisher et al. 2015 "When did the Swahili became Maritime?" American Anthropologist 117(1): 100-115.など)、アフリカ漁民研究に本研究の成果によって貢献することができている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の課題を十分に達成するために、戦略的にタンザニア南部キルワ島での調査研究を推し進めた結果、水域環境保全と市場経済の浸透による漁民社会の変化(経済・文化構造における)という現代的問題が浮上してきた。これは、アフリカ漁民社会における資源利用と多民族共存について探求する本研究に密接に関わる問題であるため、H27年度に扱ってゆく。 これまでの研究成果について単著としてまとめてゆく作業も必要である。これには出版助成申請によって対応する。
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