2016 Fiscal Year Annual Research Report
Comparative Studies on the Western Indian Ocean World: Environmental/Lifestyle Assessments on the Multi-ethnic Coexistence Seen in the Resource Use and Management
Project/Area Number |
25770311
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Research Institution | National Museum of Ethnology |
Principal Investigator |
中村 亮 国立民族学博物館, 民族文化研究部, 外来研究員 (40508868)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 資源利用・管理 / 多民族共存 / 海洋保護区 / 漁民文化 / ジュゴン / インド洋西海域 / スーダン / タンザニア |
Outline of Annual Research Achievements |
伝統的な資源利用と多民族共存メカニズムに着目して、スワヒリ海岸と紅海沿岸のイスラーム海村における比較研究より、インド洋西海域世界の漁民文化の動態と現代的課題を解明することが研究の目的であった。 急激な市場経済の浸透による社会変化がスワヒリ海村の問題である。タンザニア南部キルワ島の、1)伝統的な塩干魚の加工・販売、2)女性による揚げ魚の加工・行商、3)2013年に登場した鮮魚商売、に着目した。市場経済に適応した「鮮魚商売」と「揚げ魚商売」が発展することで島の生活水準は向上した。他方、市場経済とは別の原理による伝統的な干物文化(信用取引、P-C関係)は廃れつつある。都市部や内陸国での魚需要増大により、キルワ島の海村経済は活性化したが、一方で、島内での魚消費の減少、余剰漁獲の贈与の激減などの新たな問題も浮上してきた。また、キルワ島周辺海域の漁獲圧は過去最高に達している。良好な社会・経済状況を保ちながら、沿岸資源を持続的に利用するための資源管理や環境保全が、超多民族社会の平和的共存のために必要である。 海洋保護区でもありユネスコ世界遺産サイトでもあるスーダン紅海北部ドンゴナーブ湾では、水深に応じた資源利用に着目することで、漁民と保護動物ジュゴンの共存型海洋保護区の構想が得られた。注意が必要なのは、ナマコ、マングローブ、ジュゴンなどの「浅海資源」であった。ジュゴン混獲の主原因である「刺し網」の使用方法については今後、利害関係者間での協議が必要である。 本研究により、近年の市場経済の浸透や環境保護政策などの実施による急激な社会変化が、アフリカ海村社会に共通の問題であることが事例研究から解明された。人間活動の影響を強く受ける沿岸資源を、持続性に配慮して賢く利用・管理してゆく、日本の「里海」的な発想が、漁業従事者だけではなく、行政・開発プロジェクト・研究者にも必要である。
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