2013 Fiscal Year Research-status Report
オランダという「精神的自由」の実験場――グロティウスからスピノザへ
Project/Area Number |
25780009
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
福岡 安都子 東京大学, 総合文化研究科, 准教授 (80323624)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 近世公法史 / スピノザ / ホッブズ / グロティウス / オランダ / 国家と宗教 / 主権 / 人権(精神的自由) |
Research Abstract |
本年度においては特に、グロティウスとその政治的著作を、「レモンストラント論争」という1600~20年代のオランダを二分した論争のコンテクストに置き、そこで出版された他の論争的文書と内容的に比較する作業を進めた。 これを通じて、世俗為政者の対宗教権限(ユス・キルカ・サクラ)に関するグロティウス世代の理解が、それから半世紀ほど下るスピノザ世代との関係において、プロトタイプとも言うべき特徴を示していることが徐々に明らかになっていった。グロティウスとスピノザは、方や国際法の父、方やレンズ磨きの汎神論者と、互いに隔たった文脈で語られることが多いが、端的に表現すれば、両者は、一、二世代の時間を隔てつつ、連続した問題に取り組んでいたことが明らかになってきたと言える。 関係する史料や研究文献は国内の図書館に収蔵がないものが多数に上り、また史料の分布状況や保存状態の関係で複製が難しいことが多いため、初期近代史料に豊富なヴォルフェンビュッテル市のヘルツォーク・アウグスト図書館やハーグ市のオランダ王立図書館などにおいて直接に調査活動を行うことで補った。またこの過程では特に、公法史の第一人者であるミヒャエル・シュトルアイス教授(フランクフルト大/マックス・プランク・ヨーロッパ法史研究所)と、研究の進め方について密接な連絡を取り合った。 論文執筆においては、上記のような意味での知見の広がりを具体的な史料に跡付けて読者に示すことができるように特に心がけた。さらに、過去と現在の繋がり、特に現代の多文化共生問題等への接合可能性について展望を得ることを目的に、文献調査や研究会への参加も併せて試みた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度においては、上記の研究活動から得られた結果を、第一に、グロティウス世代の国家・教会関係論理解につき、「論争の中のグロティウス――初期近代主権論研究ノート」(『現代立憲主義の諸相:高橋和之先生古稀記念』所収。上下巻、長谷部恭男ほか編、有斐閣、2013年12月刊)として公表することができた。第二に、このグロティウス時代(1600~1620年代)に加え、スピノザ・ホッブズ時代(1650年代以降)を概観する内容の英語論文を、上記フランクフルト大のシュトルアイス教授の下に提出することができた(この英語稿の作成過程では、ネイティブ校閲者の貴重な援助を受けた)。これらに鑑みると、全体として、本研究は現在のところは概ね順調に進展していると評価して良いように思うが、下記のように次のステップの難易度が高いため、今後も一層に精進して研究を進めたい。
|
Strategy for Future Research Activity |
前項目(11)で触れた英語稿につき、活字として公表の可能性を探すことが次年度以降の最優先課題となる。章単位で学術雑誌に投稿するか、モノグラフィーとして出版するか、いくつかの方途が考えられるが、早期の実現を目指す必要があろう。そのため、状況の進展具合によっては、「平成26年度の研究実施計画」として設定した課題(トポスの外延の調査)を、平成27年度のそれ(英語稿のブラッシュアップ)と順序を入れ替える等の計画変更が必要になることも考えられる。慎重に状況を判断しつつ、柔軟に対処したい。
|
Research Products
(2 results)