2015 Fiscal Year Research-status Report
オランダという「精神的自由」の実験場――グロティウスからスピノザへ
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25780009
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
福岡 安都子 東京大学, 総合文化研究科, 准教授 (80323624)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | スピノザ / グロティウス / ホッブズ / 精神的自由 / 主権 |
Outline of Annual Research Achievements |
本計画の三年目に当たる今年度は特に、前年度までの研究成果を国際学会において英語で報告することを通じ、関連研究者から最終稿完成のためのフィードバックを得ることに努めた。 即ち、これまでの研究からは、グロティウスやアウテンボーハールトらに代表される1610年代オランダのアルミニウス派主権論が、対岸イングランドの思想家ホッブズの国家・教会関係に関する理論と、非常に興味深い関係に立つことが明らかになってきた。聖俗両権を主権に統合することを通じて寛容の実現を図る(「主権の不可分性」原則の淵源)、いわゆるErastianismの基本構想の点で両者は無視し得ない共通性を示す。この共通性は、「啓示の媒介者の問い」をキーとする旧約聖書アーギュメントの点でも看取される。しかし同時に彼らの旧約聖書トポスの解釈は、「ヘブライ人の共和国」論の具体的なレベルでは相当に相違しているのである。1660年代に『神学・政治論』を執筆したスピノザが、こうしたグロティウス的な流れとホッブズ的な流れとをダブルに吸収する位置にあって、両者の共通点と相違点とに如何に対応したのかにつき、今期はかなり充実した研究活動が出来たように思う。 学会参加により海外の関連研究者と意見交換をする機会に恵まれたことはもとより、それを通じて、オランダ圏と英米圏研究者の視座や参照文献の微妙な違いが徐々に見えてきたことも大きな収穫であった。また、ホッブズとスピノザの関係を明らかにする史料としてホッブズ批判文献も無視できないこと、さらに、17世紀オランダの思想世界が、地理的単位としてのオランダを大きく超え、人と書物の往来を通じ、隣国イングランドやドイツはもとより、スペインあるいはスウェーデン等、欧州全域と想像以上に密接に繋がっていることも分かってきた。これらの知見を今後の研究に役立てていきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要に記したとおり、今期は、5月のトロント学会に加え、初期近代史研究の総合学会であるアメリカ・ルネサンス協会年次総会で報告を行う機会に恵まれ、最終稿に盛り込むべき諸点について多くの貴重な示唆が得られつつある。同時に、報告原稿を練る過程において、また関連研究者との意見交換を通じて、次項に記すように、論証を国際学会水準でより説得的なものにするために追加的に調査すべき事項、その調査の上で現在の原稿を加筆修正すべき事項があることも明らかになってきたと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
上欄で触れた3月31日~4月2日のアメリカ・ルネサンス協会年次総会で研究成果につき報告を行う。また、現在の原稿において未だ論証として弱い点につき、ヘルツォーク・アウグスト図書館を中心に、欧州で史料・文献収集を行う。特に、ホッブズがスピノザの周辺でどのような批判を受けていたかにつき、より具体的な史料でドキュメンテーションできないか、また、最近年に出版された関連研究文献でさらにフォローすべきものはないかが焦点である。
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Causes of Carryover |
本計画で従事してきた研究をより精緻に仕上げるため、2016年3月31日~4月2日開催のアメリカ・ルネサンス協会年次総会(ボストン)で報告を行い関連研究者の批判を仰ぎ、またヘルツォーク・アウグスト図書館(ヴォルフェンビュッテル市)を中心に、欧州で初期近代国家・教会関係関連文献の追加的収集を行うことになった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
「理由」に記した学会参加及び文献収集のための旅費として使用する。
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Research Products
(2 results)