2013 Fiscal Year Research-status Report
国連安全保障理事会による「必要なすべての措置」の授権――その法的性質の検討――
Project/Area Number |
25780033
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Kinki University |
Principal Investigator |
加藤 陽 近畿大学, 法学部, 講師 (90584045)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 国際法 / 国連憲章第103条 / 国連安全保障理事会 / 国連の制裁 / 必要なすべての措置の授権 / 欧州人権裁判所 / 欧州人権条約 / 国際人権法 |
Research Abstract |
本研究の目的は、国連安全保障理事会による、必要なすべての措置の授権の法的性質の検討である。本年度は国連安保理による授権が他の国際協定と抵触した場合にどのような帰結がもたらされるかを、以下の2点に焦点をあてて検討した。 第1に、授権に国連憲章第103条が適用されうるか否かである。すなわち、国連憲章義務の優先を定める同条により、授権も他の国際協定に優先するのだろうか。国連・国家の実行、関連判例などを詳細に検討した。国連の関連する実行においては、授権によって他の国際協定が排除されているかのように扱われているが、その根拠については必ずしも詳細に論じられていない。他方でアル・ジェッダ事件(英国貴族院)では適用可能性が明確に肯定された。確立した結論を導くのは難しいが、一般的には、第103条の適用が肯定される傾向があるとは考えられる。 第2に、授権に第103条が適用されるとすれば、授権に基づき行動した国家が国際人権法に違反した場合、当該国家に人権義務違反の責任が生じるのだろうか。換言すれば、第103条によって、授権を含む国連憲章義務は国際人権法に優先するのか、あるいは国際人権法の持つ特別な法的地位から、憲章義務の優先は人権法には及ばないのか。アル・ジェッダ事件判決やナダ事件判決など、欧州人権裁判所の諸判例を中心に分析を行った結果、関連機関はこの問題を正面から論じておらず、調和的解釈による抵触認定の回避などにより、判断を避けていることが分かった。 以上の諸論点の研究は、国際の平和と安全の維持を任務とする国連安全保障理事会の活動範囲を確定するという点、さらには国連憲章と国際人権法の衝突という国際法体系における焦眉の課題を扱うという点で、実務上も理論上も意義を有するものであろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第1の論点である「授権に対する第103条の適用」については明確な結論を出せていない。関連する実行の分析は丹念に行ったものの、国連加盟国間において、この論点に関する議論が明示的に行われることはあまりないからである。もっとも、このような未解決の課題はあるものの、論文として公刊する程度にまで議論をまとめることができたため、順調に進展しているといえよう。研究計画書に記載した海上阻止活動と海洋法の抵触問題や欧州人権裁判所のアル・ジェッダ事件なども詳細に検討することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
上述の通り、明確な結論を導き出せない論点が残された。授権の問題を検討するにしても、法的拘束力を有する決定に基づく制裁や、授権と同じく法的拘束力を持たない勧告による制裁など、国連の活動全体を検討しなければ明らかにはできない点もあるため、より対象を広げて研究を進めていく必要があろう。平成26年度は提出した計画通りに研究を実施する予定ではあるが、余裕があれば積み残した点の検討も続けていきたい。
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