2014 Fiscal Year Research-status Report
国連安全保障理事会による「必要なすべての措置」の授権――その法的性質の検討――
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25780033
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Research Institution | Kinki University |
Principal Investigator |
加藤 陽 近畿大学, 法学部, 准教授 (90584045)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 国際法 / 行為帰属論 / 国連安全保障理事会 / 国連の制裁 / 必要なすべての措置の授権 / 欧州人権裁判所 / 欧州人権条約 / 国際人権法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究全体の目的は、国連安保理による「必要なすべての措置」の授権が有する法的性質の検討であり、本年度は国連安保理による授権に基づき行われた加盟国の行為の違法性が疑われた場合、この行為は当該加盟国に帰属するのか、または国連に帰属するのか、という帰属論を扱った。 具体的な分析手法としては、この種の事例を扱うことが多い欧州人権裁判所のものを中心に諸判例の比較検討を行った。ベーラミ事件(2007年決定)は安保理決議1244(1999年)に基づく国際安全保障部隊の行為が国連に帰属することを認められた事例であり、アル・ジェッダ事件(2011年判決)は安保理決議1540(2004年)に規定された授権に基づく英国の行為が欧州人権条約に違反するとして争われたものの、当該行為が英国に帰属するとされた事例である。他方で、安保理による授権ではなく、法的拘束力を有する決定によってとられた措置が国連に帰属するかどうかが論じられた事例がある。例えば、アルカイダ制裁を規定する安保理決議1390(2002年)に基づくスイスによる移動制限措置が欧州人権条約違反であるとして争われたナダ事件(2012年判決)や、イラク戦争後に前イラク政権関係者の資産凍結を定めた安保理決議1483(2003年)に基づくスイスの措置が欧州人権条約に違反するとして争われたAl-Dulimi事件(2013年判決)である。特に後者の例は最新の判例であるから、重点的に検討を行った。これらの事例は授権とは異なる性質の制裁に基づく措置を扱っていることから、比較分析を行うことにより授権の帰属論に新しい視点をもたらすのではないかと考えられた。 国連安保理の活動がますます多様化し拡大する中で、この活動から生じた責任をいかに配分し処理するかというこの問題の研究は、国連の活動を安定化し、広く諸国の参加を促すという点において重要な意義を有すると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度の中心的論点については明確な結論を示すに至らなかった。2013年のAl-Dulimi事件判決は、この論点にかかわる重要な最新判例であったため、この検討に時間を要した。また、欧州人権裁判所の諸判例の分析に予想以上に時間がかかったため、国連国際法委員会の議論などその他の議論動向を十分に考察できなかった。この種の判例においては、本年度の主な検討対象である「行為帰属論」が、国連憲章第103条の優先の問題や、欧州人権裁判所における「同等の保護」理論など、その他の密接に関連する論点と合わせて議論が展開されるため、判決をより正確に把握するためには多面的に論じていく必要がある。これらの点をふまえ、来年度も引き続き検討を行い、できるだけ早くに明確な議論枠組みの提示を目指したい。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の中心的論点について引き続き来年度も検討を行い、最終年度の課題と合わせて研究を進めていきたい。来年度は最終年度であり、全体的なまとめの作業を行い、国連安保理による「必要なすべての措置」の授権が有する法的性質について分析を加える必要があるが、個別的な論点の検討では必ずしも明らかにならなかった場合でも、このような全体的視点に立ってあらためて考察すれば、議論が進展することも期待される。
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Causes of Carryover |
本年度の主な検討課題は、国連安保理の「必要なすべての措置」の授権に基づき行動する加盟国の行為の帰属の問題であったが、新たな重要判決が下されたことや、欧州人権裁判所の諸判例の分析に時間を要したため、この論点については今年度中に明確な結論を提示するのに至らず、文献・資料などの収集にも若干の滞りが生じたため、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
最終年度において、本年度に残した検討と最終年度において予定していた課題の検討を合わせて行っていく。その際には、これまでの論点を包括的に扱い、全体的な視点から検討を進める予定であるから、その際に必要な書籍・資料の収集の費用、および資料収集の渡航のために次年度使用額を利用する予定である。
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