2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
25780051
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
内藤 大海 熊本大学, 法学部, 准教授 (00451394)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 情報収集 / おとり捜査 / 仮装身分捜査 / 行政警察 |
Research Abstract |
当該年度は本研究の初年度に当たり、日独における秘密裡な情報収集活動の現状分析を行った。とくにドイツにおける広義の潜入捜査に関する分析から、その少なくない領域がおとり捜査と密接不可分な関係にあることが明らかになった。おとり捜査は、対象者に犯罪実行を働き掛け、犯行に出たところを検挙するものと理解されてきた。しかし、その真の目的は、働き掛けにより実行される犯罪の検挙ではなく、それ以前に実行された同種犯罪の真相解明、検挙にあるとされる。ただし、判例上実際に問題となるのは、被作出犯罪が訴追された場合のおとりの働き掛けであり、「将来における犯罪」の取扱いを巡って、行政警察・司法警察のいずれの守備範囲に属するかも問題となることが明らかとなった。その成果の一部は、刑法学会九州部会(11月)、刑事司法研究会(12月)、関西刑法読書会(2月)などの研究会における報告として示すことができた。H26年度は、このような現状分析に従い、潜入捜査官、連絡員、情報提供者などによる情報収集活動と、これらの人物が時として担う犯罪誘発活動(おとり捜査)とを中心に、各論的分析を試みる。 また、2月に渡航したドイツでは、上記の分析の正確性をBucerius Law School(ハンブルク)のGaede氏に確認し、さらなる情報(最新判例の存在等)および未公刊の資料の提供を受けるとともに、バイエルン州立図書館では、本邦に存在しない警察法関連(とくに連絡員等による諜報活動)の文献の収集を行うことができた。 当該年度における成果の一部は上記研究会報告にも示されているが、さらにまとめたものを「おとり捜査の違法性判断を巡る欧州の動向(仮題)」として熊本法学131号(5月〆切、7月公刊予定)で公表する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究計画段階では、おとり捜査と潜入捜査とは、「国家による犯罪の作出」と「秘密裡な情報収集」という点で似て非なるものであると理解していた。しかし、「研究実績の概要」においても記述したように、本研究を通じて、すでに挙行された同種犯罪の検挙のためにおとり捜査が実施され、おとり捜査によって新たに作出された犯罪の検挙のみならず、それ以前の同種犯罪の情報収集(証拠収集)にも利用されることが明らかとなった。そのため、おとり捜査は、従来論じられてきた国家による犯罪の作出という問題点のみならず、国家の関与なしにすでに発生している過去の犯罪の秘密裡な情報収集の可否という点も問題となる。また、おとり捜査の担手は、潜入捜査官(Verdeckte Ermittler)や連絡員(V-Mann)といった、本来情報収集を主たる目的として投入されるもの立ちであることが多い。そのため、秘密裡な情報収集活動におけるドイツの現状を考察する際、潜入捜査(広義)との関係でおとり捜査(犯罪誘発活動)についても分析を行う必要があることが明らかとなった。これは研究計画段階では当初予定してなかった検討課題である。
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Strategy for Future Research Activity |
H26年度は、本研究の【第3期】(4~9月)、【第4期】(10~3月)に当たり、各情報収集活動の各論的考察(第3期)および行政警察・司法警察という各警察活動に対する規制の在り方について検討を加える。 まず、おとり捜査の「犯罪誘発行為」としての側面、「過去の犯罪に関する秘密裡な情報収集活動」としての側面の双方に着目した分析を行う。さしあたり、当該年度(H25)に明らかにした点、すなわちおとり捜査の違法性判断に関する欧州人権裁判所判例の分析と、これに対するドイツ国内の議論をまとめたものを「おとり捜査の違法性判断を巡る欧州の動向(仮題)」として熊本法学131号(5月〆切、7月公刊予定)で公表する予定である。また、これと併行して、潜入捜査官、連絡員、情報提供者のように「人」による秘密裡な情報収集活動について分析を加え、これらの情報収集活動に伴う問題の所在について明らかにする。 なお、このような第3期における各論的考察は、捜査手法としての問題点を意識したものである。しかし、そこで獲得された情報は、主に特定の犯罪の証拠として使用されることが念頭に置かれているものの、さらに他の犯罪の証拠となり、あるいは捜査の端緒して利用される可能性があるばかりか、行政警察活動上の資料として有益である場合も考えられる。したがって、獲得した情報の利用可能性という観点 を考慮した検討も必要となってくるものと思われる。そこで、第3期には、第4期におけるこのような検討を見据えて、ドイツにて収集してきた警察法上の情報収集に関する議論の分析を開始するとともに、9月に予定しているGaede氏への訪問インタビューの際には、研究の方向性に誤りがないか確認する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究の採択があった平成25年4月に、東京に所在した前任校(国士舘大学)より熊本大学に移籍することになったため、当初購入予定であったデスクトップPC、複合機(スキャナー)等の高額な購入予定物品の多くを、赴任に伴い増額されていた熊本大学の個人研究費で賄うことができた。また、購入希望図書が入手不能であったり、出版予定が大幅に遅れるなどして未納になっており、上記の通り次年度使用額が生じる結果となった。 主に、発注済み(出版待)の書籍代へ充当する。また、熊本大学への移籍に伴い、申請時に予定していたよりも高額化した研究会等に出席するための旅費に充当する。
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