2014 Fiscal Year Research-status Report
契約終了形態の多様化に関する法理の研究-日本・ドイツ・スイスの比較法的検討
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25780064
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
石畝 剛士 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 准教授 (60400470)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 履行障害 / 履行不能 / 行為基礎の喪失 / 契約構造論 / 医療契約 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,「契約貫徹型」(「貫徹類型」)と「契約解消型」(「解消類型」)とに基本的に整理される,広義の履行障害規範の法的効果に,第三類型としての「契約変容型」(「変容類型」)とでもいうべきモデルを構築し、その理論的基礎の確立と割当基準の明確化を主たる目的とするものである。 本研究においては,比較法的知見を基礎としつつ,以下に示す2つのアプローチから研究を展開することが重要との認識を得た。すなわち,(1)総論的課題:特に,履行請求・第一次的義務の消滅・解除・履行利益賠償・代金減額・契約適合といった法的効果の横断的分析,および(2)各論的課題:各種契約における具体的な「契約変容」要請の実相とその現象形態の分析である。 2014年度は,一方で,(1)の中でも,解消類型の典型モデルと変容類型との差異に関するドイツ法の議論を中心に検討を加えた。具体的には,履行不能に伴う第一次的義務からの解放(とりわけBGB275条2項)と行為基礎の喪失(事情変更の原則)に基づく第一次的義務の変容(契約適合請求権:BGB313条)との関係性につき,引き続き検討を加えた。 その結果,ドイツにおいては,この両規範の射程につき多くの議論があり,いまだ統一的な見解に至ってはいないことが明らかとなった。他方,(2)としては,昨年度に引き続き,医療契約を中心にその変容の契機を探ることに注力した。とりわけ,従前においては,保険診療と自由診療とは医療契約という同一のバリエーションに過ぎないという理解が中心であったように思われるところ,むしろ,それらの債務内容に照らすと,両契約を別の契約類型として観念した方が,体系的適合性を有することが明らかになった。 現時点では,議論の整理と方向性を指し示すことがより容易な(2)に関する問題群について,差し当たりの成果を公表すべく,その執筆作業に取り掛かっている段階にある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2014年度の前半は,研究代表者の在外研究期間であった(ドイツ・ミュンスター大学:2013年10月~2014年9月)。昨年度の実施状況報告書に記載した通り,ドイツにおける受入教員(Prof. Dr. Ingo Saenger)との面談及び資料収集の結果,研究の効率性向上とドイツ国内での議論の活性化度合いの観点に鑑み,交付申請書に記載した年次研究計画とは異なる手順で研究を進めているものの,進行はおおむね順調であった。具体的には,上記個別課題にかかるドイツ医療契約の文献を渉猟すると共に,総論的課題である履行障害に関して,本研究に適した文献の読み込みを行うことができた。また,受入教員との数次にわたる議論により,文献からは必ずしも明らかではないテーマの存在やそのアプローチなどにつき,貴重な示唆を得ることができた。 もっとも,在外研究から帰国した後は,在外研究時に手を付けられなかった様々な本務校の積み残し課題を早急に処理する必要に迫られ,かつ,他の諸業務が折り重なったことから,在外研究時の成果を十分に整理分析することができていない状況にある。その意味では,当初予定よりも若干の遅れが出ている。 しかしながら,帰国後に,北海道大学社会法研究会や新潟大学民事法研究会・公法研究会(共催)の場で,研究成果を報告したりするなど,その公表に向けた準備は着実に進めている。また,夏季休暇期間中に集中して検討を施すこともでき,当初予定からの遅れは挽回できる程度のものであると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
2015年度は,BGB275条2項とBGB313条の関係性という,従来から取り組んで議論を蓄積してきた上記(1)にかかる課題について,総括的な検討を行う予定である。他方,2014年度に必ずしも十分に取り組むことができなかったもう一つの課題,すなわち契約改訂という実質的意義を併有する代金減額請求権の法的性質に関する分析についても,2015年度は研究を開始する予定である。これら双方の課題を2015年度の前半期に遂行することにより,2015年度後半期は,これらの上位課題,すなわち「契約変容」類型として位置付けられる諸制度の内在的把握につき,一定の方向性を得られるものと思われる。更に,その方向性を足掛かりとして,「契約貫徹」・「契約解消」の各類型との位相やそれぞれの正当化根拠の探索という核心的課題を更に遂行させていきたい。この核心的課題の検討作業は,2016年度の前半期に基礎作業を完了させ,後半期に変容類型の理論モデル確立を目指すという形で行うことを意図している。 なお,2013年度~2014年度に行った,保険診療と自由診療の区別とその契約構造を巡る検討に関しては,本研究における個別課題部分にかかる中間成果として,夏頃を目途に,研究代表者の所属する大学の紀要に掲載する予定である。
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