2015 Fiscal Year Research-status Report
我が国特許権侵害訴訟における出願経過の位置付け――比較法的観点から
Project/Area Number |
25780083
|
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
西井 志織 名古屋大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 准教授 (80637520)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 特許権 / クレーム解釈 / 出願経過 |
Outline of Annual Research Achievements |
2015年度は、前年度に引き続き、出願経過とクレーム解釈論の研究を進め、主に最近のドイツ法・英国法の判例・学説の検討を行った。 具体的には、ドイツで2010年代前半に注目すべきBGH判決がいくつか出されたため、それまで含めた上で、クレーム解釈資料についてのドイツ判例・学説の基本的な姿勢をいかに整理できるか、分析した。その成果の一部として、論文「クレーム解釈資料に関する特許書類内外性基準――ドイツ法からの示唆」(設樂隆一ほか編『飯村敏明先生退官記念論文集 現代知的財産法 実務と課題』(発明推進協会)所収)を公表した。ここでは、特許法は当業者がどこから発明の実体を把握できることを予定しているかという観点から、原則的に、クレーム解釈の資料は、有効性判断と技術的範囲画定の両局面で統一的に、クレーム・明細書・図面、及び、当業者の一般的専門知識に限るという着想について論じた。さらに、12月には、名古屋大学で行われた日台シンポジウムにおいて、“Claim Interpretation: especially the material for interpretation and the viewpoint of the person skilled in the art” との題目での英語報告を行った。上記着想について、研究者・実務家との意見交換を行い、日本の裁判制度・実務との整合性をさらに検討することとなった。また、英国法についても、出願経過の考慮に消極的な姿勢を示した2004年の貴族院判決後の下級審判決の動向を注視しながら、整理を続けた。 以上の研究を進めていく中で、クレーム解釈において基準となるべき主体である「当業者」の位置付けについて、日本法とドイツ法・英国法との異同を研究する必要があるという認識に至り、それを含めた研究を構想中である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2015年度の研究は、昨年度に引き続き、出願経過のみならず他の資料にも目を向けた形でのクレーム解釈資料論に重点を置いたものとなり、他方で、禁反言の研究に関しては、成果を発表するまでに至らなかった。しかし、上記解釈資料論は、これまでの研究から得た成果に基づき、より高次の視点から問題を設定し直すことを試みたという意味で評価に値すると思われ、扱う問題の大きさからしても、こちらへの傾注はやむを得ないものと考える。解釈資料論については、ドイツ・英国を中心に判例・学説の調査を進めており、研究論文の発表、英語での報告を行うことができた。国際的な研究会では、外国の研究者との意見交換も行うことができ、今後の研究を進める上での示唆を得た。
|
Strategy for Future Research Activity |
2016年度も、出願経過を含むクレーム解釈論を最優先の課題とし、文献をもととした比較法研究を続ける。この際、審査制度等の、前提となる諸制度の各国間異同に注意する。研究者のみならず、実務家との意見交換も行うべく、各種団体主催の研究会に積極的に参加する。 授業期間中は文献収集や翻訳、研究会での意見交換を通じて問題意識を深め、長期休暇を利用しながら最終的な成果をまとめて、公表する。
|
Causes of Carryover |
2015年度は夏から秋にかけて体調不良であったため、出席を予定していた研究会のいくつかに参加(出張)できなかった等の理由で、予算を当初予定ほど執行しなかった。図書(文献)については、特許法全体を扱う和書・洋書の中には、他の経費で購入したものがあった。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
2016年度は、本研究課題に関係する研究会により積極的に参加し、最新の研究成果・動向について幅広く知見を獲得したい。また、引き続き、研究を円滑に進めるための物品・文献を購入させていただく。年代の古い資料については、所蔵する図書館が限られるため、必要に応じて資料調査に出向く。
|