2016 Fiscal Year Research-status Report
我が国特許権侵害訴訟における出願経過の位置付け――比較法的観点から
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25780083
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
西井 志織 名古屋大学, 法学研究科, 准教授 (80637520)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 出願経過 / クレーム解釈 / 均等論 / 保護範囲 |
Outline of Annual Research Achievements |
2016年度も、出願経過とクレーム解釈・均等論について、裁判例・学説を対象に、比較法研究を進める一年となった。 日本では、2016年3月に、ボールスプライン最高裁判決(1998年)以降、知財高裁が大合議として均等論の適用を審理・判断した初めての判決が下された。その中で、均等論の第五要件(「対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないとき」。出願経過禁反言の原則を述べたものと理解されている。)についても、いわゆるdedicationの法理を含む重要な判示がなされた。これは出願時同効材の事案を前にしての判示ではあったが、dedicationの法理は、出願経過の考慮と事実上重なる結論を導く場面もあるため、明細書とクレームとの間に矛盾がある場合としてこの問題が2010年頃以降裁判例で取り上げられているドイツ法と比較しながら検討した。なお、上記知財高裁判決については、2017年4月刊行の学習教材(平成28年度重要判例解説)に短い評釈を執筆した。英国法については、出願経過の参酌に消極的立場を示した2015年の上訴院判決とその評価を中心に検討を進めた。 さらに、医薬品製造販売承認に係る先行処分が存在する場合における、特許権存続期間延長登録出願の拒絶要件を示したアバスチン最高裁判決につき、2016年10月の東京大学民事判例研究会において報告したのだが、このテーマには、侵害訴訟で争われることとなる、延長された特許権の効力の及ぶ範囲をいかに画するかという問題が、事実上裏表をなす問題として存在している。そこで、同最判が効力範囲の考え方にもたらす影響や、原審が言うところの「均等物や実質的に同一と評価される物」と均等論との関係を考察した。さらに、その後下された、効力範囲を論じた下級審判決にも検討を加えた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
侵害訴訟で行われる保護範囲画定作業の中で、これまでは特にクレーム解釈(解釈資料論)に重点を置いていたが、2016年度は均等論に注力して考察した。これについては、出願経過の位置付けのみならず保護範囲画定全体に係る問題として、また、存続期間延長登録要件との関係性において検討するなど、視野を広く持って取り組むことができた。さらに、昨年度から研究の必要性を感じるに至った当業者の位置付けの各国法比較については、本課題を遂行する中で、構想を具体的なものにしようと努めている。
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Strategy for Future Research Activity |
育休からの復帰後は、引き続き、文献をもととした比較法研究を進める。日本の均等論(の第五要件)については、2016年3月の知財高裁判決、及び、2017年3月の最高裁判決を機に、学界での議論が再び活発になっているため、研究者・実務家との意見交換から得られるものも大きいと思われる。最終的に、成果をまとめ、公表する。
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Causes of Carryover |
2016年度後半は、出張を予定していたものの体調に鑑み取りやめたことがあり、本予算を当初予定ほど執行しなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究再開後に、調査・意見交換等のための出張を行ったり、物品を購入させていただく予定である。
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