2015 Fiscal Year Research-status Report
英国サッチャー政権の国際通貨戦略:ヨーロッパ統合とグローバル化の間
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25780116
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Research Institution | Meiji Gakuin University |
Principal Investigator |
池本 大輔 明治学院大学, 法学部, 准教授 (40510722)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | グローバル化 / 新自由主義 / 国際資本移動 / 為替管理 / イギリス政治 / サッチャー政権 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は引き続きイギリス・ナショナルアーカイブにおいてサッチャー政権期の経済政策策定に関連する政府資料を収集する一方、イングランド銀行アーカイブにおいて、同政権が1979年に断行した為替管理の全廃に関する大蔵省・イングランド銀行文書の収集にあたった。それらの資料を詳しく分析した結果、従来の研究とはかなり異なる第一次サッチャー政権の政策決定の実像が明るみになってきた。 周知のように、サッチャー政権の下でイギリスの製造業が決定的に衰退した結果、同国は金融セクター主導の経済に移行し、経常収支赤字の穴埋めのために外国からの投資に依存するようになったとされる。このようなイギリスの金融資本主義化とサッチャー首相個人が自らの政治的理念としたハードワークや経済的自立の重要性との間にはギャップがあるため、従来の研究はその齟齬をいかに説明するかを課題としてきた。これまで最も有力であったのは、サッチャーが自らの政治的信念として語ったものは、たたき上げの政治家としてのイメージを確立するため、保守党党首選挙に出馬する直前に用い始めたレトリックにすぎない、というキャンベルの説明であった。しかし新たに収集した資料の分析の結果、サッチャーは政府内部での議論において、製造業と金融業の利害が対立する局面では一貫して製造業の側の立場を代弁していたが、そのような立場は政府部内では少数派であり、政策決定に際してそれほど影響力を持たなかったことが判明した。つまり、従来の学説の想定と比較して、サッチャーは自らの信念により忠実であったが、政府内部での影響力はより限定的であったのである。 2016年3月に行われた英国政治学会年次大会において同趣旨の発表を行った結果、貴重な研究成果として歓迎され、英語圏の学術誌への投稿を強く薦められた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要に記したように、第一次サッチャー政権の経済政策策定に関する新事実の発見に成功したため。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究成果を論文にまとめ英語圏の政治学学術誌に投稿する一方、第二次政権期の資料の収集・分析に努める予定である。
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Causes of Carryover |
当初の予定と異なり、イギリスでの研究成果の発表に際して、イギリス政治学会からの支援を得ることが可能であったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度のイギリスにおける資料収集期間を計画より長期にすることで使用する。
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