2013 Fiscal Year Research-status Report
金融安定化政策の制度的・政治的課題:英国・EMUの事例研究
Project/Area Number |
25780123
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
神江 沙蘭 関西大学, 経済学部, 准教授 (90611921)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 国際政治経済 / EU / ユーロ / 金融市場 / 金融監督 / 金融危機 |
Research Abstract |
本研究は、金融・財政政策、金融監督政策が金融安定化という目的に照らして十分に連携できていないという問題を英国とEMUのケースで分析するものである。特にユーロ危機はこれらの政策相互の分断が危機状況を悪化させた一例であり、問題の特徴を明らかにするために平成25年度はまずEMUのケース分析を行った。EMUでは金融政策が欧州レベルで統合されたが財政政策や金融監督政策が各構成国レベルに残り、それが金融市場を不安定化させ、機動的な危機対応を困難にする原因となった。この点を踏まえつつ当該年度はEMUの制度形成過程を分析し、通貨統合をめぐるドイツとフランスの経済的利益やその交渉過程、ドイツのオルド・リベラリズム思想の役割について検討した。 研究成果を11月の日本EU学会で報告し(日本EU学会年報34号に修正版が掲載予定)、さらにユーロ圏の銀行同盟の分析を充実させて再構成した論文を、3月にワシントンDCで開催されたヨーロッパ研究協議会(Council for European Studies)で報告した。これらの論文ではケースの実証的な分析に加えて二つの理論的観点からの分析を行った。一つは一定の目的の下に作られた制度が置かれた文脈によって当初の機能を変化させ得るという新制度論的な分析である。ECBの形成とその機能の変化を例として論じた。もう一つは2月に出版した単著『The Politics of Financial Markets and Regulation: The United States, Japan, and Germany』での議論に基づくもので、国際レベルでの危機対応ではヘゲモニー国の国内政治の影響が大きいという点である。この観点からユーロ危機でのドイツの役割を検討した。 上記の成果に基づき、現在はEMUに関する単著執筆に取り組む一方、英国のケース分析の準備作業を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究プロジェクトはマクロ政策や金融監督政策の分断性が金融安定性に及ぼす影響を検討するものだが、政策間の連携の欠如が特に問題となったユーロ圏について当年度中にかなり分析が進んだ。EMUの形成過程、その機能の変容、制度改革の現状について幾つかの論文にまとめ、日本と米国で報告してフィードバックを得た。これはEMUに関する単著執筆の準備的作業となり、また後に英国の金融改革との比較を行うための基礎的な作業となった。論文ではケースの実証的分析だけでなく、広い理論的枠組みとの関係でケースを分析しており、理論の発展という点でも一定の成果があった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の課題はマクロ政策と監督政策の分断性が金融安定化に及ぼす影響について、ユーロ圏だけでなくより一般的な文脈で明確にすることである。近年の金融安定化に関わる諸政策の連携を高める動き、特に金融政策と監督政策を中央銀行の下に統合することで金融危機管理機能を強化しようとする動きの背景には2008年の世界金融危機があるが、その意義について再検証する必要がある。また英国とEMUの金融監督制度の改革過程を具体的に検証する中で、各国・各地域が置かれた政治的・経済的状況が改革の内容にどのような影響を与えたか、また金融安定化という観点でどのような制度的課題が残っているかについて分析を進めていく。
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Research Products
(4 results)