2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
25780137
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Meisei University |
Principal Investigator |
渡部 真弘 明星大学, 経済学部, 准教授 (00327694)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 非線形価格 / ブロック料金制 / 情報の非対称性 / 課税原理 |
Research Abstract |
本研究では、プリンシパルとエージェントの間に情報の非対称性が存在する状況において、表明原理に基づく議論を補完する基礎理論の確立とその応用に関する考察を行うことである。特に、公共料金に用いられるブロック料金制に理論的根拠を付与することに興味がある。本年度の研究結果は、以下の通りである。 エージェントの効用関数が所得効果を伴う場合でも、私的情報に依存する留保利得によって記述される参加条件に対して、具体的な間接メカニズムとしての非線形価格関数を提示することで、課税原理(Taxation Principle)の成立を明らかにした。エージェントの最適行動を示す決定ルールが私的情報に関して弱単調的であるような任意の誘因整合的な直接表明メカニズムから、間接メカニズムとしての非線形価格関数を構築することが可能であることを明らかになったので、複数のタイプのエージェントが同一の意思決定を行っている(bunching)の状況の可能性を排除することなく、課税原理が成立することが示された。さらに、エージェントの効用関数が準線形であることを想定して、本研究で提示した手法の経済学的意味を分析した。その結果、ラムゼイ問題を分析する手法を提示した先行研究である、 Goldman、Leland and Sibley (1984) によって議論された手法と、本研究の手法が双対関係にあることが明らかとなった。また、間接メカニズムが現実に観察されるブロック料金制であるための必要十分条件を明らかにした。ブロック料金制のような区間線形な非線形価格関数が、実際にプリシパルにとっての最適戦略となるような、具体的な効用関数や費用関数の組合せといった経済環境の特定化に努めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度の研究課題として挙げた項目のそれぞれについて、進行状況を確認する。 第1の研究課題は、どの程度のエージェントの効用関数のクラスで課税原理が成立するかを明らかにすることであった。留保利得が私的情報に依存する場合でも、効用関数の準線形を仮定せずに所得効果を伴う枠組みでの課税原理の成立を明らかにした。しかし、エージェントの私的情報を表すパラメーターは1次元であることが仮定されているので、パラメーターが多次元の場合にも課税原理が成立するかどうかを検討することは課題として残っている。 第2の研究課題は、本研究で提示した手法をどのように正当化するかであった。ラムゼイ問題における最適な限界価格関数を分析した先行研究である、 Goldman、 Leland and Sibley (1984) によって議論された手法と、本研究の手法が双対関係にあることまでは明らかとなった。従って、先行研究の解釈に対して別の視点を提示することが可能となったので、本研究の方向性を正当化するという目的は、十分に果たせたと考える。 第3の研究課題は、任意の直接表明メカニズムから構築された非線形価格関数の性質を明らかにすることであった。効用関数や費用関数を具体的に特定化せずに、プリンシパルにとっての最適非線形価格関数が区間線形となるための必要十分条件が明らかとなった。しかし、この条件の経済学的解釈には到らなかった。 最後に、ブロック料金制や累進的所得課税関数の屈折点の理論的根拠を明らかにすることが第4の研究課題であった。留保利得が私的情報に依存するだけでは、それほど多くの屈折点が非線形価格に生じるようではないことは明らかになった。引き続き、どのような効用関数・費用関数や私的情報の分布関数の組合せの下で、区間線形な価格体系がプリンシパル・エージェント問題の解となるかどうかを検討する。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は最終年度であるため、現在までの達成度において指摘した残された課題の内容を検討する。特に、今年度、本研究で提示した手法はエージェントの私的情報を表すパラメーターが1次元である場合に限られるので、多次元の私的情報の場合における課税原理への、本研究の手法の拡張はいまだに明らかではない。どのような多次元の私的情報を1次元の私的情報に変換する写像のクラスの下で課税原理が成立するかどうかを検討する。加えて、複数プリンシパルとエージェントの間のスクリーニング問題として、寡占市場の分析を進める。単一のプリンシパルの場合の課税原理を応用することで、非線形価格の組合せという戦略空間におけるナッシュ均衡を分析する。単一のプリンシパルの場合と異なり、エージェントにとってのスイッチングコストの競争的効果を分析する。 また、効用関数・費用関数や私的情報の分布関数の組合せが変化することによって、どのような変化がブロック料金制に生じるかどうかという比較静学的分析を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
数値解析の環境を強化するためにMathematica 9Jを購入する必要が生じたために、当初予定していた物品費を上回ってしまった。 出費を予定していたワークショップに参加するための旅費の補助を受け入れ先の機関から受けられたので、次年度の計画を遂行する上で大きな支障にはなっていない。
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