2013 Fiscal Year Research-status Report
現代イギリス福祉国家再編の経済思想史:1990年代の公共政策とガバナンス理論
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25780146
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
平方 裕久 九州大学, 経済学研究科(研究院), 助教 (90553470)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 福祉国家 / サッチャリズム / ハイエク / 準市場 / イギリス / 経済思想 / 公共政策 |
Research Abstract |
本年度は主に二つの研究を実施した。ハイエクの思想とサッチャー政権の競争導入政策の吟味、およびキャメロン政権の「大きな社会」構想における公共政策と思想の歴史的考察である。サッチャー政権は、1970年代に顕在化した福祉や社会保障の課題を市場競争によって解決しようとした。この過程では財源をめぐってサービス提供者を競争させる「準市場」が活用され、市場競争を重視する政策の基底にはハイエクの提唱した福祉国家批判があるとされてきた。 福祉国家に一定の意義を認めたが、ハイエクは個人の自由を制約するとして政府の拡大を一貫して批判し続けた。サッチャーも、ハイエクの提唱したように自由な個人の意志が尊重され、それが資源配分と結びつけられるならば、自ずと効果的で効率的な運営ができるはずであると考えた。しかし、学校教育の準市場改革の進展は、競争の機能する条件の整備・維持が必要であることを改めて浮き彫りにした。このことは、国家の役割の縮減を企図したにもかかわらず、実際には改革の進展とともに「規制者」としての国家・政府の役割が重視されることになったのである。 この公共政策の思想は、2010年に誕生したキャメロン政権にも影響を与えた。キャメロンは、政府や公共部門には規制者としての役割を維持しつつ、個人や地域の主体性と責任を重視した新しい公共政策の形を模索した。「大きな社会」として打ち出されたこの改革は、国民の権利を強調しがちな従来の議論とは異なり、意欲と責任感のある国民がサービスの担い手になることを期待していた。福祉ニーズの多様化に迫られたという側面はあるが、福祉国家の抱える課題に対する政策として、一定の意義を持つように思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の計画はほぼ達成することができた。しかし、キャメロン政権の公共政策については論文として公刊に至っておらず早急に実施したい。
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Strategy for Future Research Activity |
政策とその思想の歴史的意義を考察するために、キャメロン政権を中心とした2000年以降の政府文書の収集とLSEをはじめとするイギリスの行政学の系譜を明らかにするための資料の収集を手厚くする必要がある。政策の思想のみならず、政策の帰結についても考察に加えることを考えており、統計局等を中心とした指標の収集(改革の成果についての)に力をいれる。 引き続き、イギリス人研究者から本研究の遂行のうえで必要な助言を受ける。研究打ち合わせと資料収集のために渡英する。また、年度途中で成果を公表するために学会に参加する。
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