2013 Fiscal Year Research-status Report
環境政策の長期的な産業構造に与える影響に関する理論・実証研究
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25780171
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
小西 祥文 上智大学, 国際教養学部, 准教授 (40597655)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 環境政策と産業構造 / 長期均衡 / 不完全競争 / 企業の異質性 / Melitzモデル / 国際情報交換 |
Research Abstract |
平成25年度には、主に四つの研究実績を得た。(1) Melitz (Econometrica, 2003) の動学的一般均衡モデルをベースにCopeland-Taylor型の生産関数を導入し、異なる環境政策が一産業内の生産性分布・企業総数に与える影響を解析的・理論的に分析した。研究結果を纏めた論文は、ハワイ大学経済学部のWorking Paperとして出版されている。また、経済学における最難関の学術誌であるAmerican Economic Review (AER)に投稿し、残念ながら、査読者の評価は不採択2、修正・再稿1と掲載には至らなかったものの、貴重なコメントを頂く事が出来た。現在、修正稿を執筆中である。(2) AERの査読者のコメントが新たな研究の方向性を示唆するものであった為、示唆をベースに新たな研究に着手した。モデルの基本構造は同じであるが、排出権の条件付配分方法と産業内・産業間の生産性分布に着目した分析を行った。研究結果を纏めた論文は、近日中にハワイ大学のWorking Paperとして出版される予定である。(3) 研究補助者を雇用し、日本における窯業・鉄鋼・化学の三つの汚染集約産業に関して、事業所レベルのCO2汚染量と従業員数のデータを収集・整備してもらった。(4) 日本のエコカー減税・補助金が、消費者の新車需要の変動を通じてCO2汚染に与える影響を実証的に分析した。BLP (Econometrica, 1995) によって提示されたRandom-Coefficients Logit モデルによって消費者需要を推定した。(4)に関しては、元々の研究計画に組み入れていなかったが、本研究課題の主目的である日本の環境政策と産業構造の関係を明らかにする為に有益な研究であり、本研究課題の派生的研究として位置付けている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
交付申請書に記載した当初の研究計画では、上述の(1)に相当する研究の実施だけで精一杯の予定であったにも関わらず、計画通り重要な理論結果が得られただけでなく、更に二つの派生論文に着手し、双方とも論文として完成しつつある。また、平成26年度に予定していたデータの収集・整備に関しても前倒しで進めており、有る程度の目処が付きつつ有る。以上の事から、「当初の計画以上に進展している」と評価させて頂いた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度には、上述(1)~(3)の研究論文の更なる推敲と精緻化を行う一方、以下の二つの研究課題を進める予定である。 ①多国間モデルへの拡張:地球温暖化対策に向けた近年の国際的アーキテクチャは、CDMや二国間クレジット等の不完全な排出量取引市場と環境税や排出量取引とが多国間で並存する傾向を示している。この様な国際的環境政策群の影響を整合的に分析する為には、財市場と排出量市場双方に国際貿易が存在し、各市場の均衡が同時に決定されるようなモデルを考慮する必要がある。したがって、平成26年度には、モデルの拡張と異なる国際的環境政策の分析を行う。このような研究は、既往研究で重要性が指摘されているにも関わらず、難易度の高さからいまだに蓄積の少ない分野である事から、平成26年度のエフォートの多くを占める事が予想される。 ②実証研究の準備:上述(4)のデータ整備の過程から、日本の汚染集約産業の企業分布が理論予測に概ね合致する一方、従業員当りの汚染排出量に顕著な企業間分布が存在する事が明らかになってきた。これは、理論モデルの新たな方向性を示唆するばかりでなく、実証研究としての大きな可能性を示唆するものである。国際貿易の分野では、Bernard et al. (AER, 2003) やEaton et al. (Econometrica, 2011) の様に、Melitzの理論モデルを実証的に推定可能なモデルに修正し、モデルのパラメターを推定する事で、モデルの理論予測とデータで観察される経済行動の整合性を検証する研究や、貿易障壁の変動といった政策変数の影響を定量的に推定する試みがなされている。この様なアプローチは、本研究でも十分適用可能であると考えられる。平成26年度は、データ整備を更に進めつつ、実証研究の方向性を見極める予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
二つ国際学会の発表が決定していたが、次年度開催予定の環境経済学者の世界大会への参加を考慮し、一つに関しては共著者である樽井氏に発表して頂き、もう一つの発表に関してはキャンセルする事とした為。 次年度の直接経費約105万円を、以下のように使用する予定である。①アジア・アメリカ・ヨーロッパ環境資源経済学会合同の世界大会 (WCERE) が6月にトルコで開催予定であり、上述の(2)及び(4)の論文の口頭発表が決定している。その為の大会参加費(9万円)・渡航費(30万円)・滞在費(6万円)を含めて約45万円の支出を予定している。②実証研究に向けたデータの収集・整備・分析の本格的な作業の為に、東京工業大学の博士課程の学生を研究補助者として雇う予定である。その為の謝金として約40万円(16週間分給与)を支払う予定としている。③まだ具体的な学会は決定していないが、上記大会とは別に国内学会発表用の旅行費・滞在費として約10万円を予定している。④最後に、データ収集・整備・分析の際に必要となる未確定の予備的経費(データ・ライセンス、ソフトウェア、資料代、研究補助員のPCや雇用延長等)として、10万円ほど予算に組み入れている。
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