2014 Fiscal Year Research-status Report
途上国の災害復興における社会規範とソーシャルビジネスの役割
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25780172
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Research Institution | Seijo University |
Principal Investigator |
庄司 匡宏 成城大学, 経済学部, 准教授 (20555289)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 東日本大震災 / 震災復興 / 福島県 / 主観的幸福度 / 社会的孤立 / 雇用 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究プロジェクトでは、バングラデシュの災害復興における、個人、企業、政府の役割を実証的に分析することを当初の目的とした。とりわけ、社会問題の解決を目的とするビジネスであるソーシャルビジネスに着目する計画であった。しかし、バングラデシュの近年の情勢不安定化に伴い、本プロジェクトは東日本大震災後の福島県いわき市に研究対象地を変更した。いわき市には約3500の仮設住宅が設置されており、その9割以上が双葉郡からの原発事故避難者である。
本プロジェクトでは、避難者を対象とした独自の世帯調査を実施し、このデータを用いた実証研究を行った。調査結果によると、このような避難者は、雇用確保の難航や仮設住宅内での孤立問題、避難者間での復興格差、帰還問題など、津波被災者とは異なるさまざまな復興課題に直面していることが明らかになった。雇用問題については、マッチング問題や避難先への順応の難しさによる影響が示された。孤立問題に関しては、2013年9月時点においても、5%の仮設入居者が仮設内で誰とも会話をしていなかった。また仮設住宅に設置された談話スペースを効率的に利用していない仮設では、孤立がとりわけ悪化していた。さらに、本プロジェクトの重要な知見の一つとして、避難者の主観的幸福度を回復させる上で、経済環境の改善よりも孤立の防止や健康水準の改善がより有効であることが示された。最後に、これらの復興課題に対してソーシャルビジネスへの期待が高まっているものの、収益性と社会性を伴ったビジネスモデルを構築することの難しさを考慮すると、このようなビジネスの普及は容易ではない。
これらの分析結果は、学術論文の執筆だけでなく、被災地自治体や福島県社会福祉協議会、仮設住宅自治体への報告、ビジネス誌での連載、研究プロジェクトのHP掲載など、一般向けにも積極的に情報提供されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
前述のように、本研究プロジェクトは当初計画していたバングラデシュの被災地における実証研究を断念し、東日本大震災後の福島県いわき市を対象とする研究に変更した。しかし、いわき市における調査では現地で活動するNPOらの協力を得ることができた結果、避難者・復興支援団体への聞き取り調査を活発に行うことが可能となり、それに基いてデザインされた仮設住宅アンケート調査においても、75%という高い回収率を達成することができた。
このデータを用いて、これまで3本の学術論文を執筆したほか、ビジネス誌でも全6回の連載記事を執筆した。学術論文に関しては今年度に国内外の学会で報告することが既に決定している。また、被災地自治体や避難者への調査結果報告も積極的に行った。さらに、東日本大震災の復興問題から得られた教訓をバングラデシュ被災地の復興へ生かすための研究も計画中である。一方、これらの研究に加えて、既存のデータを用いて、バングラデシュにおけるサイクロン被災後の治安悪化問題に関する実証研究も進めており、すでに英文学術雑誌に投稿済みである。
したがって、調査対象地域は当初の計画と異なるものの、本研究プロジェクトが目的としていた、被災地における諸問題の実態を明らかにすること、それに対する復興支援団体の活動の効果を分析すること、それらを学術論文のみならず一般にも公表することに関しては、一定の成果を出すことができたと判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度となる次年度は、これまで執筆した福島県の原発避難者に関する学術論文を修正し、英文学術雑誌に投稿することを最優先の目的とする。そのため、次年度は積極的にこれらの論文を国内外の学会で研究報告する計画であり、既に数回の学会報告が決定している。
これらに加えて、以前から進めているバングラデシュ被災地における治安問題の研究や、被災後の人々の信頼関係の形成に関する研究に関しても、細部の修正後に英文学術雑誌への投稿を目指す。
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Causes of Carryover |
研究計画作成時はバングラデシュにおける被災地に研究を予定していたが、当該地域の予期せぬ治安悪化に伴い、調査対象地を東日本大震災後の福島県いわき市とした。
これにより、調査スケジュールの変更、当初計画していた経済実験の実施断念などが生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
国内外での研究報告に伴う旅費、追加的なデータ収集に伴う旅費と人件費、そして英文学術雑誌への投稿に伴う英文校正費に充てる予定である。
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Research Products
(13 results)