2014 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
25780179
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Research Institution | Fukuoka Women's University |
Principal Investigator |
中村 大輔 福岡女子大学, 国際文理学部, 准教授 (70598119)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 都市の魅力度 / 集積経済 / 家計経済 / 社会的厚生 / 都市階層モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、空間経済学の枠組みにおいて、社会的厚生関数の概念の援用により都市の魅力度に関する分析を精緻化するものである。これまでに明らかにされたとおり、長期持続可能な都市の成長には、当該都市での人口、経済を確保すべく魅力度の維持が重要な役割を果たす。本研究では、良好な状態をさらに改める都市のあり方のみならず、深刻化する諸問題に対する有効な都市・地域政策へと役立てていくことを目的としている。特に、人口減少の著しい地域における公共交通をはじめとした公共サービスの存続、それに付随する交通弱者、買い物難民といった問題は、より厳しい状況下におかれる財政の面からもきわめて深刻である。 こうした問題に対し、空間経済学の都市階層モデルを援用し、財・サービスの必需性に応じた市場圏の構成について検討を進めている。ここで、必需性の高いものとは、診療所や食材店といった生活に密着した財・サービスを表しており、本分析については、その成果の一部が Applied Geography 第49巻に掲載されている。 当該年度においては、その拡張として、招待講演「集積経済と企業立地に関する産業別特徴」、日本地域学会年次大会での「中心地システムと集積経済の家計への考慮」に関する研究報告、及び日本経済政策学会国際大会での「企業、家計の両経済主体に対する3つのサブシステムを内包した持続可能な地域成長とインフラ整備」に関する研究報告を行った。これらの成果の一部は、Springer 社 "Firm's location selections and regional policy in the global economy" 第1章単独執筆として間もなく刊行される他、International Regional Science Review での投稿論文が修正版査読に入っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究における目的は、第1に、都市の魅力度に関する考察を、地域経済主体全体で行うことである。すなわち、これまでの分析においては、企業、家計、もしくは政府といった各経済主体別の計測がなされてきた。企業行動は経済的基盤整備、家計行動は社会的基盤整備、政府に関しては地域の経済基盤確保と福利厚生の最大化が議論の中核を担うが、ここでは、いずれの経済主体も、地域という空間経済的な枠組みにおいてはそれぞれが有機的に関連づけられている必要がある。平成25年度には、既存の中心地理論を援用し、地域経済学のサーベイ及び拡張を行った。 第2に、これらの関連づけを形式的に可視化する社会的厚生関数の一般化である。本研究では、その目的に応じ、社会的厚生関数を公共政策に結びつける。その手段として、地域における財・サービスの入手可能性を1つの指標としている。平成26年度には、社会的厚生関数を精緻に設定するための既存文献の貢献と限界を明らかにするとともに、単純化されたモデルを構築した。これらの研究は、関係学会における報告、討論、及び研究論文として Applied Geography への掲載を果たした。 最後に、以上の考察を踏まえたうえで、平成27年度には、都市・地域の空間階層レベルに依存した魅力度改善のための地域政策についての分析を行う。都市・地域の空間階層レベルは、具体的には、検証する都市の初期条件(交通の歴史的要衝など)、及び、人口規模や経済動態により大まかに分類することができる。そのため、どういった条件の都市・地域に、どのような魅力度を確保すべきなのかを、社会的厚生関数を媒介にして最終的に説明づけていく。 以上の点から、現在までの達成度は、おおむね順調に進行していると判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに得られた結果を基にして、平成27年度は、当初の予定どおり、社会的厚生関数を援用した都市の魅力度に関する空間経済モデルを、それぞれの都市・地域の特性に関連づけ、どこにどのような空間政策が必要であるのかを具体的に示していく。今年度も引き続き、研究の各進捗段階において、関連学会、研究会等での研究報告を行い、研究者間での議論を高め、論理的な整合性及び手法を随時慎重に検証していく。 平成25年度に得られた結果から、平成26年度には、人口・経済に求心力を持つ大都市と、求心力を持たない地方都市での都市間競争が一因となる、財・サービスの入手可能性の都市間格差が、都市の魅力度の1つの指標として議論された。この問題は、既存の都市の階層構造を維持させた状態では、特に人口減少の著しい我が国では、中心地理論に基づけばその解決に支障をきたす。そのため、平成27年度には、代替的な都市の補完構造としての広域的地域連携を踏まえた長期持続可能な国全体の都市形成のあり方を考察の対象とする。 具体的には、中心地理論の階層型モデルによって、各都市の初期条件と人口・経済の動態に応じた広域的地域連携の効果を、全体的な持続可能性の観点から分析することである。そして、広域的地域連携のもとでの空間的特性に応じた都市規模の最適化問題を検証する。さらに、今後の研究方針として、地域経済予測の諸手法への対応づけについても明らかにしていく。その上で、最終年度としての研究成果発表及び報告書の作成を計画的に行っていく。
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Causes of Carryover |
平成26年度は、研究計画に沿って研究を進めているのと同時に、最終段階に至る慎重な基盤固めを続けており、国外での学会報告及び資料整理に伴う謝金等の支出が抑えられた結果、次年度使用となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度は、研究計画に沿って、我が国における広域的地域連携等を踏まえ、長期持続可能な国レベルの都市形成のあり方について検証する。具体的には、前年度までに考察された、中心地理論による階層型モデルを援用し、代表的な都市の初期条件及び人口・経済動態に応じた魅力度改善のための空間政策を検討する。さらに、都市規模が空間的特性に応じて、単に最大化されるのではなく、最適化されることが長期持続可能な都市形成として望ましい点を論証する。そして、そのためにはどのような都市にどういったものが求められるのかを明らかにする。最後に、本研究が、実社会における貢献として重要とされる地域経済予測の諸手法に、どう対応づけられるのかを明示した上で、最終年度としての研究成果発表及び報告書作成を計画どおりに進めていく。
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Research Products
(4 results)