2013 Fiscal Year Research-status Report
均衡サーチモデルに基づく雇用保護法制の再検討:解雇規制と労働生産性に関する考察
Project/Area Number |
25780194
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Soka University |
Principal Investigator |
増井 淳 創価大学, 経済学部, 准教授 (50409778)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 均衡サーチモデル / 内生的雇用喪失 / 団体的賃金交渉 / 労働者による努力水準の決定 / ジョブの異質性 |
Research Abstract |
本研究の目的は、労働市場に存在する取引摩擦を考慮した均衡サーチ・モデルに基づき、解雇規制が企業の採用・解雇行動に及ぼす影響や労働生産性に及ぼす影響を分析することである。特に、(1)団体的賃金交渉、(2)労働者による努力水準の選択、(3)労働者及びジョブの異質性、に焦点を当てて分析している。現段階では下記の成果を挙げている。 (1)に関して、正規・非正規雇用の存在および内生的雇用喪失を伴ったモデルを用い、正規雇用の賃金が団体交渉で決まる状況を想定して分析を行った。具体的には、正規・非正規の各雇用形態に課せられた解雇費用(解雇に伴う純粋な調整費用)が雇用創出および失業率に及ぼす影響や、正規雇用の賃金が個別的交渉により決定される場合との結果の相違、を明らかにした。得られた結果として、(a)正規雇用に課された解雇費用の減少は均衡失業率を低下させること、(b)賃金形態が団体交渉か個別的交渉かに応じて、解雇費用が労働市場に及ぼす影響に違いが生じること、が示された。 (2)及び(3)については、現在進行中である。(2)に関して、伝統的な怠業理論とジョブの異質性を考慮したモデルを用い、制度的に支払いを義務付けられた退職金の変化が、企業の採用行動・労働者の労働意欲・労働生産性に及ぼす影響を考察している。現段階では、そうした退職金の引き上げがどのような状況で雇用創出を促し、また均衡失業率を低下させるかが特定されている。最後に(3)に関して、ジョブの生産性が異質かつ不完全な情報である状況を想定したモデルを用い、解雇に伴う調整費用の変化が企業の採用行動や労働生産性に及ぼす影響を考察している。ここでは、(1)と同様に正規・非正規雇用の存在を明示的に取り入れた状況下で、正規雇用に課された解雇費用の増加が正規雇用者の平均生産性を増大させることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
最初に掲げた3つの研究課題((1)団体的賃金交渉、(2)労働者による努力水準の選択、(3)労働者及びジョブの異質性)ごとに、達成度を自己評価する。 【研究課題(1)】既に一通りの分析を終えており、正規雇用の賃金が団体交渉により決まる状況下で解雇規制の影響を分析し、また個別的賃金交渉のケースとの間で生じる結論の相違を明らかにした。その意味で、当初の予定に沿った形となっているが、労働生産性に関する分析及び退職金の影響を盛り込むことができなかったことは、想定外であった。 【研究課題(2)】現在進行中の課題であり、労働者の怠業行動を取り入れた均衡サーチ・モデルを用いて研究している点は、当初の計画通りである。しかし、努力水準を連続変数として扱うことの困難に直面したこともあり、モデルの構造は計画した内容と若干異なる形となっている。 【研究課題(3)】こちらも現在進行中の課題である。ほぼ主だった分析は終えており、労働者やジョブの異質性を考慮したモデルを用いて、解雇規制が企業の採用行動や労働生産性に与える影響を分析している点で、当初の計画通りである。
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Strategy for Future Research Activity |
【研究課題(2)】 ・退職金の変化が労働生産性に及ぼす影響を分析する上で、均衡を記述する式の複雑化により、明確な結果をもたらす条件を特定できないかもしれない。そのような問題に直面した場合は、生産性の分布を特定したり、他の関数の形を特定したりすることで対応を試みる。 ・試用期間の長さが政府により定められている状況を想定しているため、その期間の変化が労働市場に及ぼす影響も分析していく予定である。 【研究課題(3)】 ・現状では、退職金ではなく純粋な調整費用としての解雇費用の影響に焦点を当てている。これに加え、企業の採用基準や雇用創出に与える影響が、解雇費用の種類に応じて異なるかも調べる予定である。 ・ここでは、非正規雇用の雇用継続期間が1期間であると仮定している。つまり企業は、各期の終わりに非正規雇用者を正規雇用に転換するか、それとも雇用契約を打ち切るかの選択を迫られることになる。この点に関して、関連研究で想定されているような非正規雇用契約の継続性を考慮することで、既に得られた結論がどのように変更されるかも調べる予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初、2013年8月に行われた国際学会での報告を予定していたが、他の研究との兼ね合いで当該研究が思うように進展せず、応募を見送った。結果としてその分の旅費が浮いた形となり、書籍の購入や論文の英語校正に予算を計上したが、それでも若干の経費が余ることとなった。 雇用保護及び有期雇用政策に関するEU諸国の取り組みを記した書籍等の購入か、論文の英語校正の費用に充てる予定である。
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