2015 Fiscal Year Annual Research Report
企業の資金調達コストとその実体経済への影響に関する実証分析
Project/Area Number |
25780202
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
鈴木 通雄 東京大学, 経済学研究科(研究院), 講師 (40580717)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 公的資本注入 / 自己資本比率規制 / 銀行危機 / 設備投資 / 生産性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、ブリティッシュコロンビア大学准教授の笠原博幸氏と東京大学教授の澤田康幸氏と共同で、日本政府が1998年3月に1.8兆円、1999年3月に7.5兆円の規模でおこなった銀行への公的資本注入政策の効果を分析した。具体的には、公的資本注入が、企業向け融資と設備投資にどのような影響を与えたのかについて、企業と銀行の財務諸表データを組み合わせ、企業向け融資の成長率と設備投資比率のモデルを推定した。分析対象は製造業に属する企業である。まず、融資の成長率については、企業側の属性をさまざまな形でコントロールした上で、公的資本注入と銀行の自己資本比率の改善が、企業への融資成長率を上昇させることを確認した。 企業の設備投資への影響については、以下の経路に注目する。まず公的資本注入は、対象銀行の自己資本比率を上昇させ、早期是正措置により強化された自己資本比率規制に抵触する可能性を減少させる。したがって、対象銀行は企業の融資申請に応じやすくなり、それが、企業の設備投資の増加につながる可能性がある。本研究は、この経路の影響を分析するため、設備投資比率を、企業規模や生産性だけではなく、対象企業が過去に融資を受けた銀行の自己資本比率の関数として定式化し、それぞれの効果を推定した。その結果、企業の生産性と銀行の自己資本比率の交互作用項の係数が正で有意であることがわかった。このことは、生産性が高く設備投資の必要が比較的大きい企業であるほど、取引関係のある銀行の自己資本比率の改善が、設備投資に影響することを示唆する。既存研究に比べて、本研究は、公的資本注入の効果が、各企業の生産性にどのように関係するかを分析している点と、早期是正措置の対象である銀行の自己資本比率の改善を通した公的資本注入の設備投資への影響を定量化している点が新しく、意義のあるものだと考える。
|