2016 Fiscal Year Research-status Report
大都市工業と経済発展―日本経済史における都市と地域―
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25780214
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
今泉 飛鳥 埼玉大学, 人文社会科学研究科, 講師 (60613461)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 経済史 / 近代日本 / 東京 / 都市 / 産業集積 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、経済発展や都市間の関係性を念頭に都市所在工業の実態や特質、およびその歴史的変容を解明することにある。具体的には、1. 特許、2. 工業教育、3. 取引関係、そして4. 災害からの復興過程の4点を分析の起点とする計画であった。本年度(第4年度)は、上記の分析起点のうち主に3.取引関係の研究をまとめる年と位置付けていたが、加えて1.特許に関する分析にも進展が見られた。 業者間の取引関係は資料不足により接近が難しいものの、研究を進めるなかで見出した公文書の情報によって、明治期東京の機械・金属・造船等の製造業者を取り巻く、取引関係を含む多様なネットワークを描く端緒を得た。このネットワークは、各製造業者の成長や事業内容の拡大・転換を支え、明治中期における機械工業の定着、発展に寄与していたと考えられる。以上の分析及び考察の内容は日本語論文としてまとめ、学会誌に投稿中である。 特許についての分析ではまず、人力車の「発明者」とされる人々が特許制度導入前後の紆余曲折のなかで受けた処遇とその結果を明らかにした日本語論文の、学術誌への掲載が決定した。この分析は、特許制度導入に至る試行錯誤の過程を見ることで、この新制度が社会に何を新たにもたらし、当時の人々にどのように受容されたのか、を考察する手がかりを与えるものである。 さらに、上記を踏まえたうえで、特許の地理的な分布についての英語の投稿論文を執筆した。特許権取得件数や特許権者数を所在地別に集計すると、東京への強い集中が明らかになるが、その特徴と要因について大阪と比較しながら考察を行うものである。なおこの過程で、データを当初の想定以上に精緻化できる方途が判明し、そのための資料収集等を追加で行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画においては4つの分析の起点を想定しているが、計画時の順序と多少前後しつつも、それぞれの分析に資する資料を収集し、分析を進めることができている。 そのうち工業教育に関する資料の分析は、データ整理作業の進行が安定せず、遅れ気味である。一方、とりわけ特許に関する分析では、当初の想定以上の分析を行うことができている。例えば人力車の事例の分析は当初の想定を越えるものであったが、日本における特許制度導入の経緯を考察し、特許に着目する意義をより明確化することができた。また、特許取得件数の分析では、作業を行うなかで分析結果をより精緻化できる方法があることが判明し、その遂行のため追加の調査・分析を行った。これらにより、研究全体の意義をより深めることができたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続きデータ整理作業を遂行し、各実証分析をそれぞれ公表まで完遂する。 本研究を遂行するなかで、経済及び産業の発展と地域との関係を考えるうえでの視角を明らかにしてきた。それらを踏まえて各実証分析の結果を糾合し、本研究全体としての歴史的知見の提示を目指す。
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Causes of Carryover |
データ整理等のための研究補助作業の進行が想定より安定しなかった。また、研究の意義を深めるため、一部計画を変更して実施した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度は引き続きデータ整理等のため謝金等を執行し、研究成果を論文にまとめ公表する。
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