2014 Fiscal Year Research-status Report
時計産業におけるイノベーションと製品の意味:価値的側面に関する実証研究
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25780246
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Research Institution | Meiji Gakuin University |
Principal Investigator |
大竹 光寿 明治学院大学, 経済学部, 准教授 (40635356)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | イノベーション / マーケティング / ブランド / 創発 / 資源ベースの戦略論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、1990年代後半以降、日本企業の時計事業の収益性が低下した理由を、製品の技術的側面のみならず、技術や製品に対する当事者の解釈に着目して明らかにすることにある。なぜ技術革新が収益に結びつかないのか、そして技術革新を収益に結びつけることは如何にして可能なのか。この問いについて、(1)日本企業の時計事業の収益性、(2)製品の技術要素の歴史的変遷、(3)メーカーが訴求する製品コンセプト、(4)販売店の品揃えとコンセプトの編集、(5)雑誌出版社によるコンセプトの編集、(6)消費者による製品の使用文脈、という6つの点から明らかにするものである。このうち平成26年度は、(1)(2)(3)に加えて主に(4)について取り組んだ。 上記の問いに対する答えを探していく際に浮かび上がってきたのは、技術の進化をめぐって生じる人々の葛藤である。クオーツ、GPS、電波といった新たな技術を取り入れた、時間の精度を飛躍的に高めた製品で日本企業は時計産業をリードしてきた。しかし、技術的な進化の背後には、時計という古くから存在したモノやその技術を巡って多くの解釈が生まれ、その過程で様々な葛藤が生じている。 それは、メーカーにとっては、他社の技術革新によって生まれた技術環境に制約を受けながらも、如何にして技術開発や販売活動を展開していくべきなのか、伝統と革新のバランスをどう保つのかという意思決定の際に生じる葛藤である。また流通業者にとっては、大規模な小売店の成長や取り扱う製品が変わることで生じた葛藤である。さらに消費者においては、新たな技術やそれをベースにした製品ならびに企業やメディアが発するメッセージをどのように解釈し対応をするのかという葛藤が技術進化の過程で生じている。 研究成果は国外の学会、および、学術雑誌『経済研究』(理論的枠組みの提示)で発表された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
技術革新によって生じた流通業者間の対応の違い、その意図、その後の事業展開について、二次資料のみならず、当事者へのインタビューによって明らかにできた点が、研究2年目の大きな成果である。また、事例研究と並行して行っている理論研究についても、専門分野であるマーケティングと経営戦略論を橋渡しする暫定的な理論枠組みを構築できた点も成果であると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度は、企業関係者へのインタビューと並行して、ゲートキーパーと消費者に着目し、(5)雑誌出版社によるコンセプトの編集、(6)消費者による製品の使用文脈、を明らかにする作業を実施する。具体的には、編集者やジャーナリストらはどのようにウォッチについて語り、そのコンセプトを「翻訳」してきたのかを、記事の定性的な内容分析、用語の頻度分析、当事者へのインタビューによって明らかにする。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた大きな理由は、予定していた国内旅費を使用しなかったためである。当該年度において地方にて流通小売業者にインタビューを実施する予定であったが、都内近郊のみの調査を行うにとどまったからである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度は、これまで都内で行ってきたインタビュー調査と資料収集について、全国各地に広げる。その際に必要となる旅費および資料コピー代が使用額の多くを占める予定である。また、製品コンセプトと雑誌の記事分析をより詳細に行うため、それにともなって必要となる雑誌取得代およびコピー代が使用額に含まれる。
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