2015 Fiscal Year Research-status Report
時計産業におけるイノベーションと製品の意味:価値的側面に関する実証研究
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25780246
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Research Institution | Meiji Gakuin University |
Principal Investigator |
大竹 光寿 明治学院大学, 経済学部, 准教授 (40635356)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | イノベーション / マーケティング / ブランド / 正統性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、1990年代後半以降、日本企業の時計事業の収益性が低下した理由を、製品の技術的側面のみならず、技術や製品に対する当事者の解釈に着目して明らかにすることにある。本年度は、これまで明らかにしてきた技術の進化(例えばクオーツ、GPS、電波といった新たな技術)をめぐって生じた人々の葛藤について、主にゲートキーパーと消費者によって見出されたウォッチやブランドの正統性に着目して明らかにする作業を行った。 明らかにされたのは以下の3点である。第1に、消費者がウォッチやウォッチメーカーの特徴を手がかりに、8つの原型と照らし合わせて正統性の有無を判断していることである。第2に、消費者が自身とブランドとの関係性を手がかりに、3つの原型と照らし合わせて正統性を探求していることである。そして第3に、こうした対象と自分自身の観察を通じた正統性の探求プロセスでは、消費経験を重ねるにつれて、自らが製品や企業一般に抱くあるべき姿と当該ブランドとの適合性から、自分自身の変化、具体的には当初考えてもいなかった製品や企業一般のあるべき姿をブランドが新たに提示しそれが自らの信念として定着すること(不適合的な適合)が、より重要な要素となってくることである。 これは、一時的に生じた不適合性が消費経験を通じてダイナミックに解消されていくという点で、この後者の論理は企業と市場の間に生じる「不均衡ダイナミズム(dynamic imbalance)」(Itami 1987)の一側面である。モノやブランドの正統性をめぐる「不適合的な適合」の論理は、ブランドの供給側および需要側の論理に目配りしながら、産業と企業の成長プロセスを明らかにしていく上で必要不可欠な分析視点であることが示唆された。 研究成果の概要は、「アフター・イノベーション:ブランドの正統性をめぐる「不適合的な適合」の論理」として、学術雑誌『経済研究』152巻で発表される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
技術革新によって生じた当事者の葛藤について、フィールド調査を通じて消費者によるブランドに対する正統性探求を明らかにできた点が、本年度の主要な成果であると考えている。販売店や雑誌出版社といったゲートキーパーらの行為や認識の変化については二次資料を整理し、当事者らへの聞き取り調査もすすめた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、上述の課題について、(1)日本企業の時計事業の収益性、(2)製品の技術要素の歴史的変遷、(3)メーカーが訴求する製品コンセプト、(4)販売店の品揃えとコンセプトの編集、(5)雑誌出版社によるコンセプトの編集、(6)消費者による製品の使用文脈、という6つの点から明らかにするものである。平成28年度は、特にゲートキーパーと消費者に着目し、(5)および(6)を明らかにする作業を平成27年度に引き続き実施する。具体的には、編集者やジャーナリストらはどのようにウォッチについて語り、そのコンセプトを「翻訳」してきたのかを、当事者へのインタビューによって明らかにする。それと並行して、ウォッチの技術革新にともなって、それまでウォッチメーカーに部品を供給していた企業や協力企業の対応、および販売店の業態転換などについて、そのパターンを明らかにする作業を行う。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた主要な理由は、都内および近郊でインタビュー調査と資料収集を行ったため、予定していた国内旅費および資料収集代を使用しなかったからである。また、予定していた消費者調査(リサーチ会社を通じたインフォーマントの設定)を行わず、現場でのエスノグラフィックインタビューで代替したために、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度は主に4点、使用を計画している。第1に、インタビュー調査を全国各地および国外に広げるため旅費が必要となる。第2に、製品コンセプトと雑誌の記事分析をより詳細に行うため雑誌取得代が必要となる。第3に、海外研究発表に伴う論文の英文校正費用および定性データの翻訳校正費を計上する予定である。第4に、リサーチ会社を通じた消費者調査を行うため、インフォーマントを数十人設定する費用が必要となる。
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