2014 Fiscal Year Research-status Report
ケース・スタディに基づく日本的管理会計の研究―製造現場の責任会計に着目して―
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25780302
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Research Institution | Kyushu Sangyo University |
Principal Investigator |
足立 洋 九州産業大学, 商学部, 准教授 (60585553)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 責任会計 / ケース・スタディ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,製造現場の改善活動における責任会計のあり方の追究である。平成26年度研究実施計画に基づいて実施した研究活動は,以下の3点である。 第一に,前年度から実施している福岡の制御機器メーカーでの半構造化インタビューを行った。その中で,管理会計システムの構造についての調査のみならず,実際にそれを改善活動や予算管理に利用している管理者に対しても調査を行うことにより,システムの利用実態についてのデータ収集を行った。報告者は,このデータの分析を通じて,管理会計システムの導入が販売部門と設計部門の間の日常的な部門間統合に寄与したことを明らかにし,この研究成果の一部を日本原価計算研究学会全国大会にて報告した。 第二に,これまでの文献調査を洗練した。近年,製造現場の改善活動との関係において,京セラのアメーバ経営やミニ・プロフィットセンター制の導入に関しての考察研究が盛んに行われている。これを受けて平成26年度は,こうした製造部門における利益責任の設定実務に関する最新の研究成果をレビューした。そして,この文献研究の成果の一部を学術論文として,論文集『次世代管理会計の礎石』(上總康行・澤邉紀生編,中央経済社,2015年)に掲載し,公刊に至った。 第三に,過去のケース・スタディのデータの精査を通じて,仮説の修正の必要性を発見した。当初計画では,製造現場における責任会計は,現場に責任会計を適用せず専ら日々の生産管理と問題点の改善へと誘導する「現場管理主導型」と,現場にも責任会計を適用する「責任会計主導型」とに類型化する仮説を設定していた。しかし平成26年度に実施したケースデータの精査の中で,報告者は,現実の管理会計実践においてはそれらはトレードオフ関係にあるとは限らず,むしろ相互補完的な関係にある場合が存在することを発見した。この成果の一部は海外の学会で報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度の当初の研究実施計画では,①ケース・スタディのデータ蓄積,②それらのデータの概念的整理を通じた仮説の検証,③国内の学会を中心とした研究成果報告,の3点を予定していた。平成26年度には仮説の修正の必要性を発見したことなどにより,当初計画とは若干異なった活動を行っているが,全体としてはおおむね予定通りの進捗を見せている。 ①については,リサーチ・サイトの数を数社に限定し,それら企業については複数回にわたる重厚なインタビュー調査を実施した。特に,前年度の研究活動の課題として残されていた,ミドル・マネジメントにおける責任会計の実践についての調査を入念に行った。これにより,管理会計システムの構造だけでなく,それを実際に利用している管理者の会計的目標の達成に向けたモチベーションにまで踏み込んだデータの収集が可能となった。 ②については,当初計画で予定していたよりも,過去の調査データの精査や文献レビューを徹底した。その結果,当初の仮説を修正する必要性が明らかになった。具体的には,「責任会計主導型」の製造現場は,決して日々の生産管理から月次の利益管理へと管理者の意識をシフトさせるものではなく,むしろ責任会計の実践を通じて日々の生産管理を強化する意図を有する場合があるという点であった。このことから,今後は責任会計が製造現場にまで浸透しているか否かにより実践を類型化するよりは,責任会計システムが製造現場の活動に与える影響を精査することが当該研究にとって重要であるとの示唆を得た。 ③については,研究成果は国内の日本原価計算研究学会(会場:神戸大学〔兵庫県神戸市〕)に加え,海外学会のNew Zealand Management Accounting Conference(会場:Auckland University of Technology〔ニュージーランド〕)でも報告を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究実施計画によれば,平成27年度は①ケース・スタディにおける調査データの蓄積,およびそれを通じた仮説の洗練,②その仮説を基礎とした海外向け学術論文の執筆および投稿,という2つの工程を予定している。 ①については,交付申請書に記載の通り,引き続き遂行していく予定である。ただし,平成26年度の研究成果の一つとして,当初の仮説モデルを修正する必要性が発見されたことが挙げられる。このことから,「現在までの達成度」の項で前述したように,多数のサンプルにおいて製造現場で責任会計を実践しているか否かを確認するだけでなく,責任会計システムの製造現場の活動への影響プロセスを精査することが必要であると考えられた。そこで,平成27年度は,リサーチサイトのサンプル数を絞り込んで重厚なインタビューを行い,製造現場の活動と責任会計の実践との関係プロセスの精査を重視した研究活動を展開する予定である。 ②については,平成26年度に前述の海外学会報告時に作成した英語論文を,そこで受けたコメントを参考に洗練し,海外学術雑誌に投稿する予定である。報告者は,平成26年度には別の研究プロジェクトにおいてタイでの日系企業に対するインタビュー調査を実施した。このため,タイでの調査データをも念頭に置いて論文執筆を行うことにより,海外学術誌向けに本研究のテーマである「日本的管理会計」の特徴を鮮明に描き出した論文の執筆が可能となると考えられる。そして,そのプロセスの中で,労働市場や組織文化の特徴なども視野に置きながら,当初計画で想定されていた仮説の修正・洗練作業を進めていく予定である。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた最大の理由は,仮説修正の必要性が発見されたことに伴うインタビュー調査旅費の減少である。平成26年度の研究活動では,過去に実施したケース・スタディの調査データを精査する中で,当初計画していた仮説を修正する必要性が発見された。このことに伴い,平成26年度は,インタビュー調査先を比較的勤務先から近隣に位置する企業に絞り込み,各企業に対するインタビュー回数や調査内容を増やして,より精緻な調査データを入手することに専念した。 また同時に,この仮説の修正作業の準備の一環として,当初計画において想定していた以上に最新の先行研究をも含めた文献レビューを実施することに力を注いだ。このことにより,インタビュー調査旅費の発生額が当初計画での想定に比べて大幅に減少した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度は,26年度から繰り越された231,440円を,主に研究会に係る旅費へと充当する予定である。その理由は,報告者の勤務先が福岡県の大学から広島県の大学へと変わったことによる。報告者は以前より,主に福岡で開催される管理会計学関連の研究会にて研究報告を行い,研究内容の洗練を行ってきた。したがって,今回の転職に伴い,研究会等への参加のための旅費が以前よりも大幅に増加する見通しである。広島から福岡まで1泊2日で出張した場合,交通費・宿泊費・出張手当をあわせて30,000円強の支出が発生すると見込まれる。したがって,これを2か月に1度すなわち年度に6回実施すれば,20万円程度新たに支出が生じることが見込まれる。このため,26年度からの繰り越された次年度使用額はこの追加的支出に充当する予定である。
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Research Products
(4 results)