2013 Fiscal Year Research-status Report
リスクに対処するためのレジリエンスと生きられた法の環境社会学的研究
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25780313
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Tohoku Gakuin University |
Principal Investigator |
金菱 清 東北学院大学, 教養学部, 教授 (90405895)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | リスク / レジリエンス / 生きられた法 / 震災 / メメントモリ / 第二の津波 / 過剰なコミュニティ |
Research Abstract |
本研究は、地域コミュニティがその社会を根底から破壊するような災禍にあってもなお、その災禍を吸収するダイナミズムを保持していることを明らかにする。人類学者のホフマンはこのことを、人びとが自然の事象を文化のもとに置き直そうとしたと表現している。そして被災者がなぜ荒廃した地域に戻ってくるのか、災害が慢性的に起こる地域になぜ人は住み続けるのかについて彼女は、経済的理由や安全な場所から締め出されているという理由以外に、宗教的な象徴表現を用いた隠喩が所有の働きをもたらすことを指摘している(ホフマン,2006)。 社会学に引きつけて言えば、人びとの生活サイクルに自然災禍を所与のものとして組み込み所有することで、災禍をコントロール可能なものにしていることを指摘できる。それは千年災害であってもまるで災禍を「所有」するかのように、コミュニティが災害のリスクを“引き受ける”ケースが見受けられるからである。自然科学者が投げかける、なぜリスクがありつつ住むのかという疑問に対しては、津波や原発などのリスクは外部条件ではなく、これまで地域コミュニティが引き受けてきた数あるリスクのうちのひとつであるということを社会科学として応答する。 今年度の成果としては以下の通り ・「内なるショック・ドクトリン―第二の津波に抗する生活戦略」『学術の動向』2013 年」10月、「内なるショック・ドクトリン―第二の津波に抗する生活戦略」『理論と動態』2013年、「災害死を再定位するコミュニティの過剰な意義―if の未死と彷徨える魂の行方をめぐって―」『フォーラム現代社会学』12号特集 2013年5月
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
フィールワークが当初の予定より進んだことと、それを論文や著書にまとめることにより本研究の達成度はおおむね順調に進んでいるものと思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
3.11の震災を契機としてこれまであまり対象に入ってこなかった方法的に異なるアプローチをとることで対象そのものが違って見えてくるのではないかということが研究途上でわかってきたので「震災メメントモリ」という概念で震災の社会をフィールドワークを進める。 とりわけ、リスクを逃れた安全な位置から考えるのではなく、「死者」を取り込んだ海辺に近い土地、あるいは海辺そのものから復興のあり方を考える。被災者自身が心の隅にしまい込み見えなくなっている実態からの問いかけである。 今後の研究では、死者や喪失との「付き合い方」を通して次のステップに向かうことを基軸に置く。ここではそれを「震災メメントモリ」と呼んでいる。メメントモリとは元々「死を忘れるな」「死を想え」という旧約聖書に由来するラテン語の言葉であるが、震災のために生を中断せざるを得なかった人びとへの想いでもある。そして死者および死者と関わる人びとの想いを捨象すれば、震災の経験を何も踏襲していないのと同義であるという教えでもあるように思われる。ここで強調したいのは、死者との霊的な交流や宗教儀礼ではなく、震災にともなう遺体や埋葬のあり方、遺族が死者とともにいる感覚、過剰な〟コミュニティの働きかけによって救われる魂など、生者である被災者の共同行為に軸をおいた見方である。今後の研究方針としてこの震災メメントモリを中心として被災地を見る。
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Research Products
(5 results)